千年女優(2001) | あの時の映画日記~黄昏映画館

あの時の映画日記~黄昏映画館

あの日、あの時、あの場所で観た映画の感想を
思い入れたっぷりに綴っていきます

 

 千年女優(2001)

 

その早逝があまりにも惜しい天才、今敏監督作品をリバイバルで観てまいりました。

 

伝説の銀幕の大女優、藤原千代子が、初恋の人を追って、大正~戦前~戦中~戦後と時空を超える物語。

いかつい男が、スクリーンで一目観て惚れてしまい彼女の映画を追いかける『ラムの大通り』(1971)に、日本的情感をたっぷり詰め込んだようなお話です。

 

近年、公に姿を見せなくなった藤原千代子のインタビューをとるために、制作会社のディレクターとカメラマンが藤原邸を訪ねるところから物語は始まるのですが、そこから時空を超えた展開となり、人物の配置までカフカ的になる。その編集は計算されつくしたカットの連続で息をつかせない。

 

今監督は、『東京ゴッドファーザーズ』で、ハリウッド映画の『三人の名付け親』をモチーフにしていたり、『パプリカ』では、おなじくハリウッドの古典映画を見事に自作で再現したりして見せたが、本作では、日本映画黄金時代の作品を次々と再現してくれます。

 

黒澤明の『蜘蛛巣城』で、三船敏郎が幾千もの矢を放たれて窮地に陥る場面の再現から、印象的だった不気味な予言師の登場まで、見事なオマージュ。

 

ほかにも、鞍馬天狗や、ゴジラを模したであろう特撮怪獣映画など、日本映画のクラシックが次々登場し、今監督の映画愛がひしひしと伝わってきます。

 

近年、年中公開されているような、「ヤアっ!トオッ!」「ドカーン」「俺は負けないんだ、ヤァーっ」パキン、ポキン、ドーン「命に代えてお前を助けるっ」と、やたら空虚な少年ジャンプ的なアニメーションとは明らかに一線を画した映画的線の太さがあります。

 

本当に細かいところまで、映画の持つ世界観を壊さないような工夫がなされており、全編セル画で作成された本作には人間の体温がこもっています。

 

『パーフェクトブルー』を観ていないので断言できませんが、現時点で、本作は今敏監督作品の中では私の中ではナンバーワンです。

 

作りこまれた見事な脚本にも感服しますが、本作の持つ躍動感をさらに引き立たせる平沢進の音楽の見事さも、見逃せ・・・いや聞き逃せません。

 

奇想天外、時空を超えた不思議の国のアリスのような物語なのに、純愛物語である本質が貫かれており、エンディングでは眼に熱いものを感じました。

 

『千年女優』(2001)アニメーション

今敏監督 87分

2002年(平成14年)9月初公開