Winny(2023)
まだ記憶に新しいファイル共有ソフト“Winny”を開発した金子勇を主人公にして、Winny開発にまつわるあれこれや、Winnyソフトによる著作権法違反ほう助の罪に問われた顛末を実話にもとづいて描かれた物語です。
彼の開発したWinnyが当時のインターネット掲示板2ちゃんねるでダウンロードされるようになり、それを利用して映画や音楽、わいせつ画像や児童ポルノ、はては国家権力の機密文書まで違法にダウンロードされてしまう事態となった。
事態を重く見た警察は、ただちに開発者の金子勇を逮捕し、裁判にて有罪に持ち込もうとする。
金子についた弁護団は、技術者が新しいソフトを開発しただけで、それを悪用したネットリテラシーの低い人物こそ悪質であると無罪を主張する。
そんな裁判が展開される中、警察の裏金にまつわる資料がWinnyを介して出回ってしまうのだが・・・
派手な音楽もなく派手な演技もなく、淡々と物語を進めていきながらも、きちんと起承転結をつけて演出している松本優作監督は手堅くてとてもいいと思った。
主人公の金子を演じた東出昌大も、ちょっと浮世離れしている天才プログラマー役の感じがよく出ていてよかったと思ったし、彼と友情のような関係になっていく担当弁護士、壇の三浦貴大も抑えた演技で現実味がある。
そして、弁護団の主任弁護士を演じる吹越満がさすがの存在感を示していると感じた。
ここまでがっちり作ったのだから、警察の裏情報をリークした巡査部長の吉岡秀隆や、違法すれすれの手法で金子を追い詰める渡辺いっけいにももっと深く切り込んでほしかった。
松本監督なら、それで少々長くなってもだれることはないと思います。
実話をもとにしているので、裁判の結果と金子勇の顛末はご存じだと思います。
構造的に大きな欠点を持つソフトを、金子の能力をもってすればすぐに修正可能なのになぜ完全な形にして世間に公表しなかったのか。
劇中では、そんな風に利用されるとは考えていなかったというような本人の供述等がでてきますが、彼の頭脳であればそれは想像できたのではないかと思います。
この勇み足のような発表とそれにまつわる金子の逮捕によって、7年間もの後れを取った日本のインターネットソフトの開発は大いに遅れ、後発隊のYoutubeなどは、莫大な利益をもたらすことになりました。
新しいテクノロジーについていけない日本の司法、立法にも問題ありですね。
パソコンを触ったこともないような人がデジタル大臣をやっているような国だから。
金子勇は早すぎた天才なのか。
もし彼が日本でなく海外で開発者の道を進んでいたらどんな凄い進化をしていたのか。
そんなことを考えてしまう一篇です。