コントラクト・キラー(1990)
断然お気に入りの悲喜劇。
鬼才、アキ・カウリスマキ監督の才気爆発の一篇です。
イギリスの国営企業に勤めていた、アンリ(ジャン=ピエール・レオ)は、その会社の民営化に伴い、フランス人であることから真っ先に解雇を言い渡される。
絶望した彼は、雑貨屋でロープを買い、首吊り自殺をしようとするが失敗。ガスオーブンに頭を突っ込んでガス自殺しようとするが、ガス会社がストライキを始めたためガスが供給されず失敗。
どうしても死にたい彼は、殺人請負会社の存在を知り、自分の殺しをその会社に依頼する。
覚悟を決めた彼は、部屋で殺し屋を待っているが、なかなか殺し屋は現れず、酒も飲めないのにふらりとバーへ。
飲んでいるとき、店に花売り娘が現れて、彼は彼女に一目惚れ。
死にたい願望が亡くなった彼は、殺人請負会社に殺しのキャンセルに向かうのだが、会社はすでに無くなっていて、キャンセルできない状態に・・・
面白いです。
派手なアクションシーンも爆破シーンもなく、淡々と進む物語。
エピソードとエピソードの間が絶妙で、これ以上長いと冗長で短くなると淡白になる。
セルフは極端に少ない。
だから、たまに発せられる台詞が印象的なものになる。そして、ギャグも笑える。
いや、ギャグも笑えるというより、本作はコメディでありシリアスな中に塗り込まれた不思議な笑いがずっと途切れることなく連続するのだ。
音楽もカッコよく、
ビリー・ホリディとかも流れていたんじゃないかな。
主人公を狙う殺し屋も、凄味はあるがどこか影があり、自分の稼業に虚無感を漂わせているのもいい。
主人公と花売り娘との関係も、必要以上に派手な演出はなく、ラブシーンに入りかけると画面はフェードアウト。
他の監督なら、絶対ベッドシーンまで描写しますね。
上品でいいんですよ。
また、主人公が自分の殺しを依頼しに行く場面で、雇われている殺し屋とみられる面々に、人生捨てちゃいけないよなどと悟らされる場面もおかし味があっていいんですよね。
会社で居眠りしている別の社員を映した後、カメラは休憩時間も返上して仕事をしている主人公の場面になり、そんな彼がいきなり解雇宣告される場面にはやるせなさを感じたり。
ピカピカドカーンばかりで内容が空虚な作品が多い中、こういう作品を観るとホッとします。
急転直下のラストシーンも決まってますね。
どこか散文的なところが、ジム・ジャームッシュ監督の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984)を感じさせます。
二人は交流があるとのこと。
そんな、カウリスマキ監督は、
『自転車泥棒』や小津安二郎監督の『東京物語』が好きらしいです。
なるほど!
ペーソス漂うブラックコメディ。
終始、生固い演技の主人公は最後まで笑いません。
『コントラクト・キラー』I Hired a Contract Killer(1990)
アキ・カウリスマキ監督 フィンランド=スウェーデン 79分
1991年3月日本公開