ワイルド・アット・ハート(1990)
愛すべき迷作珍作を作ってきた、デヴィッド・リンチ監督が、これまたへんてこりんな作品を作り、そしてカンヌ映画祭グランプリまで取ってしまったのでびっくりでした。
ちょっとおかしい恋人、ルーラ(ローラ・ダーン)の母親の恨みを買ってしまった、セイラー(ニコラス・ケイジ)は、母親の差し向けた殺し屋を逆に殺めてしまう。
数年の服役の後、更生施設から出所するセイラーを迎えに行こうとするルーラを、母親は必死になって止める。
そんな母親を振り切ったルーラは、セイラと一緒にこの街を出ようと車でカリフォルニアを目指す。
それを許さない母親は、知り合いの殺し屋の男を差し向けて、セイラーを殺そうとするのだが・・・
なんなんでしょ、これはという感じですね。
二人が逃げるスケッチ風な描写の間に、セックス場面とダンス場面を挟み、オールディーズの音楽がバックで流れる。
デヴィッド・リンチ監督だから、変な奴がいっぱい出てきます。
まず、母親。
完全に人格破壊していて怖いです。
『キャリー』の母親とタメを張れるほどの怪演です。感情崩壊して顔全体にリップを塗ってしまうシーンはトラウマになるほどのインパクト。
道中で出てくる人物も奇妙な人ばかりなのですが、その中でも特に危ないのが、いつも歯茎を出してニヤニヤ笑っているボビー(ウィレム・デフォー)。
この粘着質な感じがなんとも不快です。
このボビーが、強盗話をセイラーに持ち掛けてきて、ここからクライマックスとなっていくのですが・・・
リンチ監督だから、ここからどんな変態チックな展開になるのだろうと期待していたら、
おいおい!って突っ込んでしまいましたよ。
まさか、愛こそはすべてみたいな展開になるなんて。
リンチ監督、あなたはそんな人じゃないはずだよね。もっと後味の悪い、なんともいえない不快感で終わらせてくれるはずだよね。
『イレイザーヘッド』(1976)然り、テレビシリーズの『ツインピークス』然り。『ブルー・ベルベット』(1986)もそう。
善人の顔をして観客の感動を誘いながら裏では悪い顔している『エレファント・マン』(1980)もね。
あの感じが僕の好きなリンチ監督なんですよ。
オープニングで占いの水晶玉が出てきた瞬間に悪い予感はしますけどね。
オカルトに逃げている時点でろくなことがない。
水晶に入った魔女が出てくるシーンも、ここは笑うシーンなのかなと精神逡巡しましたね。
場面転換にマッチの炎を使用したりして演出も工夫しているのですが、特に効果があるわけでなく、監督一人がゴキゲンになっているように見えます。
リンチ監督の持ち味であるグロ描写も必然性を感じず空振り感が漂う。
ただ、犬が人間の手を咥えて逃げるシーンは、黒澤明の『用心棒』だな!とニヤリとしましたけど。
逃亡劇としてもつまらないし、なぜ本作がカンヌで最高評価されたのがわかりません。
ちっともリンチ監督らしくない本作。
がっかり作の一本です。
興味のある方は『オズの魔法使い』を見ておいたらいいかもしれません。
『ワイルド・アット・ハート』Wild at Heart(1990)
デヴィット・リンチ監督 124分
1991年1月日本公開