われに撃つ用意あり(1990)
多国籍都市となった1990年の新宿歌舞伎町を舞台にした、全共闘世代への挽歌ともいうべき若松孝二監督の一篇です。
かつて全共闘の闘士として活動していた、郷田(原田芳雄)は歌舞伎町でスナックを営業していたが、明日で営業を終了するという。
近所の人には惜しまれての閉店だったが、その閉店の準備をしているときに、ヤクザに追われている台湾人のメイランが飛び込んでくる。
負傷している様子をみてただならぬものを感じた郷田は、メイランをかくまった。
そして営業最終日。
閉店祝いとして、かつての全共闘の仲間が来店し、昔の思い出に浸ったりしていたのだが、メイランの居場所を知ったヤクザが店に乗り込んできて・・・
全共闘時代には体制側と戦った面々も、今や公務員や出版社社員、予備校の講師などとして、過去を懐かしむ世代となっているところがなんともいえない寂しさを感じますね。
あの頃はよかったと思うものもいれば、馬鹿なことをしていたと思うものもいる。
しかし、ボブ・ディランの『風に吹かれて』が流れてきたりすると、ふたたびその思いが燻りだす。
もう燃え上がることのない思いだけれども、完全に消えることなく燻り続けている様子が描かれるんですよね。
こういった思いは全共闘世代だけではなく、どの世代でも輝いていた時代への郷愁として共感できるのではないかと思います。
そういった意味で、本作は優れたノスタルジィ青春映画だといえます。
ヤクザが店に飛び込んできたときに、いつもジャイアンツのユニフォームを着て巨人の星を歌っているお調子者(石橋蓮司)が撃たれて店内が騒然となるのですが、このシーンの桃井かおり、斉藤洋介らをはじめとする役者たちの演技の見事さと言ったら!本作の見どころの一つであります。
若松孝二作品ですから、かなり強烈なグロシーンもありますが、本作はそれがあまり強調されていないのがよかったですね。
そして圧巻なのは、クライマックスの郷田と李津子(桃井かおり)の殴り込みのシーン。
特に郷田を演じた原田芳雄の渋さがたまらないほど魅力的。
『ラスト・シューティスト』(1976)を演じた時のジョン・ウェインを思わせる悲壮感を漂わせた演技は生涯最高なんじゃないだろうか。
二人の関係がはっきりしてくるラストシーンも余韻を残していい。
ヤクザの対立関係がややわかりにくいのが難点ですが、マル暴担当の刑事、蟹江敬三の存在感がその欠点を補っています。
梅津和時のフリージャズも憂いを帯びていてカッコいい。
おススメです!
『われに撃つ用意あり』(1990)
若松孝二監督 106分
1990年11月公開