キャタピラー(2010) | あの時の映画日記~黄昏映画館

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 キャタピラー(2010)

 

賛否が分かれるでしょうね。

江戸川乱歩の『芋虫』をモチーフに作られた(クレジットはなし)若松孝二監督の性と業の映画。

私はあえて反戦映画とは呼びません。

 

日中戦争激化により出征したものの、負傷して四肢を失い帰国した久蔵。

 

そんな久蔵を『軍神』として、村人たちは奉る。

 

妻のシゲ子は久蔵を献身的に世話をするのだが、ただ食べる、寝る、性行為をするという本能のみの行動しかしない久蔵に対し次第に嫌悪感が湧き始めて・・・

 

まず、シゲ子を演じた寺島しのぶの熱演は誰が観ても納得でしょう。

いくら献身的に世話をしていても、

変わり果てた姿で戻ってきた夫を見て狼狽して田んぼに飛び込むオープニングシーンに彼女の本音が垣間見れます。

 

最初は夫に求められるままに性行為に応じていたシズ子が、次第に不能になる夫をなじりながら跨るシーンはSM的倒錯の世界。

 

性欲の塊だった夫が次第に不能になっていくのには戦地での体験が元になっているのだが、シズ子はそんなこと知る由もない。

 

粘着的にこのテーマを掘り下げて心理的深みを描いていけばひょっとしたら傑作になり得たかもしれない。

 

並行して描かれる反戦メッセージの声が大きくなり過ぎた。

倒錯した性欲を原爆のせいにしてはいけない。

作劇としてあまりにも安易で稚拙。

 

天皇陛下の肖像写真の下で性行為をするのも背徳感を感じているというふうにとらえるべきで、天皇陛下の戦争責任を問うかのように解釈するのは軽薄。

 

若松監督だから、そういうメッセージを込めた作品に仕上げたかったのだと思いますが、私的には腑に落ちないですね。

中途半端になってしまった。

 

四肢を失っているが人間らしさを残している兵士の悲惨な話は、

『ジョニーは戦場に行った』(1971)という傑作があるだけにどうしても比べてしまい、見劣りする。

反戦メッセージの強さも桁違い。

 

撮影日十数日そこそこ、

スタッフも十数人で作り上げたところはさすがだとは思いますが。

 

 

やっぱり若松監督には性と業に特化した作品のほうがうまく撮れるし好きです。

『処女ゲバゲバ』なんて最高です。

 

 

『キャタピラー』(2010)

若松孝二監督 84分

2010年8月公開

第60回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞受賞作品(寺島しのぶ)