三島由紀夫原作の風刺喜劇。
【逢イビキハ、オオッピラニスルベシ】【処女ト童貞ハスミヤカニ捨テルベシ】【痴話喧嘩ハ派手にスベシ】
週刊明星に連載されるや否や、その機知と諷刺で文壇に旋風を巻き起した原作を、西河克己監督で映画化。
殺人以外はほとんどの罪を犯した「世にも不道徳な男」藤村が刑を終えて出所してくる。
しかし出所しても彼をしつこく狙うギャングやかつて騙した女たちに追われる日々。
そんな面々から逃げる途中、
列車移動中の彼と瓜二つの男・相良の寝込みを襲い、
彼と入れ替わった。
この相良という男、
実は文部省の役人で道徳教育界の権威、
列車が到着すると市長や学校校長からの歓迎の嵐が待っていた。
市は道徳教育モデル都市の認定を受けて、
援助金1000万円をもらうために街を浄化して、
彼を接待漬けにするのだが・・・
多少の不道徳は道徳なのだという逆説的なメッセージが面白い。
道徳モデルの街をめざす住人たちが善人なのだが不道徳なのだ。
特に相良が宿泊することになる学校長の家が不道徳極まりなく、
家族全員が不道徳。
息子らは自家製銃を製造して完全殺人事件を目論むほどの悪ガキ。
そんな相良が高校生たちの前で道徳について一席ぶつシーンは、
まるでフランク・キャプラの演説場面のよう。
時代が時代だけに、
当然反体制の若者たちも登場する。
三島と思想が相反する彼らの姿もユーモアたっぷりの優しい描き方をしているのが興味深いな。
オープニングで檻から放たれた主人公は、
エンディングで三島由紀夫によってふたたび檻に閉じ込められる。
刑務所に閉じ込められるということではないです。
彼が閉じ込められてしまうこのラストは、
道徳的であることの不自由を象徴しているようで面白い。
似非プレイボーイの長門裕之が、
女性を意のままにしている妄想に囚われているシーンはフェリーニの映画みたいなのも面白いな。
この作品のヒロインの筑波久子が、
まさかこの後ハリウッドに渡り、
『ピラニア』シリーズなどの映画を製作するとはね。
三島由紀夫原作作品にしては実に軽く、
でも、きちんと毒を盛ってある。
そんな作品です。