喜劇とんかつ一代(1963) | あの時の映画日記~黄昏映画館

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あの日、あの時、あの場所で観た映画の感想を
思い入れたっぷりに綴っていきます

大好きな川島雄三が、

自らが愛するとんかつを題材に用いて描いた艶笑喜劇。

監督のとんかつ愛が伝わってくるグルメ映画ともいえると思います。

 

フランス料理の名店“青竜軒”を飛び出して東京の下町でとんかつ店“とんQ”を営む久作(森繁久彌)。

名フランス料理店で鍛えた腕前は確かで、そのとんかつの味は日本一と言われていた。

 

青竜軒のコック長・伝二(加東大介)は久作の腕を見込んでいて、

ゆくゆくは青竜軒のコック長の座を譲ろうとまで考えていたが、

その気持ちも知らず店を飛び出してとんかつ屋を始めた久作に対しては複雑な感情を抱いていて、

今や犬猿の仲だった。

 

その伝二の息子・伸一は大学を出て、

3年間フランス料理の修業を積んだものの飛び出してしまい、

大資本家の社長の秘書として辣腕をふるっていた。

 

この社長と伝二にも何やら訳アリの関係があった。

社長は青竜軒を買収して伝二にコック長を続けてもらいたいと考えていたが、

それを知った伝二はコック長を辞めてしまう。

 

そして・・・

 

オープニングの♪とんかつを~食えなくなったらしんでしまいたい~♪からなんだかゴキゲンになれてしまう。

そしてとんかつに対する蘊蓄は森繁久彌の流れるようなセリフ回しも相まって思わず聞き入ってしまいます。

とんかつの調理シーンは実際のとんかつ名店主人の指導があり、

森繁のとんかつ調理シーンも実に様になっている。

 

主要人物たちの自由な女性関係が、

物語の複雑な血縁関係をあぶりだしていく過程が面白い。

じつに大らかな展開なんですよね。

そして接吻シーン。

あえてキスシーンとは書きません。

日本映画で一番最初にキスシーンを撮った川島監督の接吻シーンは実に濃密です。

決して執拗な描写ではないのにとても情熱を感じるのです。

とてもじれったい接吻シーンをフランキー堺は実に見事に演じる。

 

未来食“クロレラ”を研究する血縁のよくわからない伸一の兄弟(三木のり平)が1964年東京オリンピックのロゴが入ったエプロンをしているのもいいですね。

 

いきなり豚の供養シーンから始まるのもぶっ飛んでいて川島監督らしいと思う。

 

川島監督のフィルモグラフィーの中では上位に入る作品ではないと思いますが、

例えば新青竜軒のオープンを告知するパンフレットにソノシートを利用しているなど、

細部にこだわる川島監督らしい描写はあらゆるところで見ることができ、

芸達者たちの演技合戦も見どころの作品となっています。

 

『喜劇とんかつ一代』(1963)

川島雄三監督 94分