ビリー・ワイルダー監督特集第2回目。
今回は監督5作目『皇帝円舞曲』(1948)のご案内です。
ワイルダー監督のフィルモグラフィの中では、
相対的に評価が低い作品です。
要因は様々あると思いますが、僕的には面白かったです。
一般的娯楽映画の水準から言えばはるかに上出来な作品だと思いますね。
主演に・ビング・クロスビーを迎え、
ヒロインを、「レベッカ」のジョーン・フォンテインが演じる豪華版。
要所要所でクロスビーが美声を聴かせるミュージカル仕立てとなっております。
オーストリア皇帝にペットの犬バトンズとともに蓄音機を売りに来たスミス(クロスビー)という名の一般的なアメリカのサラリーマン。
愛犬バトンズが伯爵令嬢であるジョアンナ(フォンテイン)の愛犬シェラガーデに突っかかっていたことから、
スミスとジョアンナは知り合うことになる。
ただ、ジョアンナは貴族のプライドに満ち満ちた性格で、
一般人のスミスをあからかに見下した態度で二人の仲は決して良好ではなかった。
ジョアンナの愛犬シェラガーテは、
皇帝の愛犬との交配が決まっており、
ジョアンナの父親の将軍は、この交配が実現すれば皇帝の側近になれると意気込んでいた。
この父親が将軍ながらダメ人間で、
経済的にも破綻しており、この交配に血眼になるのも無理はなかった。
しかし、
肝心のシェラガーテの様子がおかしい。
心配した父親らは獣医を呼び診察させるが、
どうも情緒不安定らしい。
そして、シェラガーテは館を脱走してしまう。
なんと、シェラガーテはスミスの愛犬バトンズに恋をしてしまったようなのだ。
ジョアンナとのトラブルが原因で国外追放を宣告されたスミスとバトンズ。
バトンズも様子がおかしく、ホテルから離れた小島で寂しく鳴いていた。
そのバトンズに会いに海を渡って会いに来たシェラガーテ。
それを追ってきたジョアンナ。
スミスはその2匹の犬を持ち前の甘い声で仲良くなるようにして、
ジョアンナもそれにうっとりしてスミスに惚れてしまう。
スミスとジョアンナはすっかり恋仲となり結婚を決意するが、
その結婚には皇帝の許しを乞わねばならず、
その身分の違いから許しが出ることはほぼ不可能だった。
そして・・・
あらすじはこんな感じです。
身分違いの恋、ありがちですよね。
ワイルダー監督はこのありがちなストーリーに犬同士のラブストーリーをダブらせた。
才気といわずにいられないでしょう。
そして、この犬たちの名演技。
ビックリします。
この犬たちの演技を観るだけでもリピートの価値あり。
そんなに犬が好きという訳ではない私ですが、
スミスの商売道具である黒い箱の上にキチンと座っているバトンズの姿は本当にかわいいです。
バトンズとシェラガーテのラブシーンもいいです。
そして蓄音機をのぞき込む犬・・・そう、あのメーカーを連想しますね。
そんな遊び心も面白い。
しかしワイルダー監督はこのコメディの中にもピリリとしたスパイスを忘れない。
獣医がシェラガーテの診察をするのに、
フロイトの精神分析をクソ真面目に引用するところには、
フロイトに対する皮肉が込められていると思うし、
仔犬が生まれてくるシーンでは、
君主政治による身分制度に対する厳しい批判と、
その身分を守るための近親婚に苦言を呈している。
出生地オーストリアに対してのワイルダーなりの厳しいメッセージが込められていると思う。
ただ、ミュージカル監督としての彼の演出力はどうなのか。
チロルの山村を活かしたヨーデルの合唱シーンや弦楽器の演奏。
ビング・クロスビーの甘い歌声と、村人らのダンス。
・・・もったいない、どうもうまくない。
ワイルダー監督らしいたたみかけるような展開が寸断されたように感じてしまうのだ。
既存の音楽を効果的に編曲したヴィクター・ヤングの音楽が、
スピード感のあるとてもいい効果を出していただけに惜しいですね。
ミュージカルシーンの演出はミュージカルセンスによるものが大きい。
残念ながらワイルダー監督は向いていなかったようです。
それでも、娯楽映画としては上々の出来。
皇帝の舞踏會を観に来ている中年婦人たちのうわさ話で物語が進行していくあたりも、
ワイルダー監督らしいです。
あと、邦題。
『皇帝舞踏曲』はThe Emperor Waltz の直訳なんですけど固いですね。
おかしなアレンジの邦題もどうかと思いますが、
コメディ感がまったくない。
題名で敬遠してしまう観客も多かったのではないかなと。
本作の宣伝部さんにはちょっと考えてほしかったですね。
『皇帝円舞曲』The Emperor Waltz(1948)※日本公開は1953
ビリー・ワイルダー監督 106分
- 失われた週末(1945)