『切腹』
1962年(日) 小林正樹監督作品
先日80歳で亡くなった橋本忍の脚本による、
小林正樹の時代劇。
といっても、先に公開されていた黒澤明の、
『用心棒』や『椿三十郎』のように颯爽痛快ではなく、
武士社会のもつ矛盾や非人間性、虚飾、偽善といったものを告発した、いわば社会派の時代劇です。
戦乱の世は過ぎ、
天下泰平となった世の中。
かつての武士たちは浪人となり下がる者が多く出た。
そんな中、
井伊家の屋敷にひとりの浪人半四郎(仲代達也)が訪ねてくる。
半四郎は井伊家の家老である斎藤勘解由に、「仕官もままならず生活も苦しいので、このまま生き恥を晒すよりは武士らしく、潔く切腹したい。ついては屋敷の庭先を借りたい」と申し出たのだが・・・
橋本忍の脚本は相変わらずうまい。
物語のほとんどが、
仲代達也のモノローグで展開するのですが、
だれることなく手に汗握る緊張感が持続する。
後半のクライマックスの一つ、
仲代と丹波哲郎の決闘の場面は真剣が使われたそうだ。
吹きすさぶ風、流れる雲、
二人の表情が殺気立っている。
綿密な時代考証による二人の剣術が、
そのディテールを確かなものとしリアリティーを増加させる。
そして武家社会の非道さをここまで冷酷に描いた作品もそうあるものじゃないでしょう。
本来切腹ができるはずのない竹光を使って切腹を強要し、
三度四度と腹をついて苦しませたのち、
わざと介錯を遅らせてその様子を家臣たちが見つめているシーンなどはその最たるものだ。
その残酷性が、
海外では様式美ととらえられたようで、
カンヌ映画祭審査員特別賞を本作は受賞している。
後に自らも割腹自殺した三島由紀夫が本作を絶賛していたのも何かの因果か。
この作品を一言で表すならば、
『怨』。
納得していただけると思います。
武満徹の音楽も印象的。