時節をとらえた話題を紹介するNHKクローズアップ現代、有能な国谷弘子キャスタの時から拝見しています。彼女は出演した菅官房長官に突っ込みを入れたことで官邸の意向で降板させられ、同じく降板させられたジャーナリストの岸井さんなどと共に海外のメディアにも取り上げられました(クリック)。後任のキャスタが国谷さんの質を保てるのか懸念がありましたが、当初はともかく、今は武田キャスタの下、なかなか良い内容なものが多く、国谷さんの築き上げた重さは継承されてきたと思います。先日取り上げられた、がんはどうして見逃されるのかについての紹介は、病院コンサル経験を重ね合わせて拝見しましたが、なるほどと思わせる内容で、前々回(クリック)、前回(クリック)の2回、当ブログで取り上げました。今日はその3回目です。


診療科別の縦割りの診療体制の問題、多忙を極める医師の問題、情報連携の習慣、画像診断医(放射線科医)の数と質の問題など、様々な問題がありましたが、以下に絞りました。

①連絡疎漏(情報連携の不徹底)
②見落とし防止(診断医の数:休眠医師の活用、画像診断センタ)
③見落とし防止(診断医の質:画像診断支援)
 

①については前回に書いたとおりです(クリック)。今日3回目は、②、③です。

 

~検査結果を画像で得る装置の数とそれを読影する技術を持った医師の数と対策~
 

《アンバランスな検査装置数と医師の数》

人口当たりのCT、MRIの設置台数は世界一にも拘わらず、放射線科医は世界一少ないという極端にアンバランスな問題があります。簡単に言えば、挙がってくる検査画像は大量なのに対し、読影するノウハウを持った医師が少なすぎるということです。

稼働率にもよりますが、装置の台数に比例して撮影される画像(枚数)は多くなります。それを読解する画像診断医(放射線科医)が少ないのだから、読影が終わるまでに時間を要するし、十分に時間をかけならないのはうなづけます。読影結果を入力する手間を省くために音声文字変換機能を使っている病院もありますが、物理的に捌き切れない量を前に、見逃されるケースも出てくることは容易に想像できます。


装置の台数もさることながら、昨今の装置の特徴に大量な画像が撮影されるというものがあります。要所要所を撮影するのはもちろんですが、念のためこの辺も撮っておこうということかもしれませんが、多い場合には2000枚近く、少ない場合でも200枚近いという数字です。

40年前は4~5分で2枚程度しか撮れなかったのに対し、今は4~5秒で200枚も撮影でき、且つ、画質の鮮明さは格段に優れていて、不鮮明な昔の画像で見逃されていた小さな異変でも発見することができるようになりました。こうなれば、経験の浅い未熟な医師、観察力の鈍い医師では見逃してしまう場合でも、鮮明な画像なら見逃される可能性は低くなります。もっとも、以前紹介した技量不足な医師では、猫の小判です(クリック)。逆に、不鮮明な画像でも読影に優れてた医師が観れば発見できるでしょう。手技に優れた医師は、手術ロボットのダビンチに頼らなくても問題なく手術をこなしているのと同じということ・・・かな。

《診断医不足対策/質の担保と量の確保》

画像を読影する医師が不足している対策の一つに、交通の便の良い都心に画像診断センタを作り、ここに登録した医師が都合がつくときに来て各所から送られてくる画像を解析するという試みが実際に運用されています。また、育児休暇などで自宅にいる医師に画像を送って自宅で読影してもらうという、今の時代ならではの試みもあります。ネットワーク環境さえあれば、場所を問わず読影可能で、首都圏の画像を地方に送って読影してもらうことも容易です。

しかし、一番良いと思われるのは、主治医が専門領域はもちろん、部位を問わず、何か映っていないかを読影する力を身に着け、専門領域以外の場所に異変らしきものを見つけた場合には、診療科の枠を超えて忌憚なく異変通知として関係診療科に連絡できる機能、縦割りになっている診療科の垣根を低くするなど、有形無形な環境整備が求められます。

 

《診断医不足対策/質の支援》

上述のように、育児休暇中の休眠医師の活用など量的な対策は採られていますが、それでもOECD各国の中で最下位になっている診断医数を挽回することは難しい状況です。また、既述のように一回の検査で得られる画像の数が以前の何百倍にもなることから、一人の診断医が読影しなければならない枚数が飛躍的に増えたことも医師不足に拍車をかけています。

そこで、今ブームのAIの登場です。実際には摩訶不思議な能力を期待されているAIではなく、普通の情報処理システムですが、大量の検査データ(ビッグデータ)を読み込み、統計的な処理をして特徴を抽出した異変のパターンを用意し、検査した画像とパターンマッチングさせ、異変を発見する方法です。この処理を人間(診断医)の何万倍のものスピードで処理できるのがコンピュータの優れたところです。これは人手不足を根本的に解消する施策になります。しかし、あくまでも診断支援システムで、診断を結論づけるものではないことに注意が必要です。支援システムによって何千枚何百枚の中から瞬時にピックアップされた異変と思われる画像を読影し、最終的な判断を下すのは、全体を俯瞰し、関連する諸症状から総合的に判断できる人間(診断医)です。

参考ブログ:顔認証技術を応用した内視鏡検査画像の読影(クリック


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