前回のブログで、健診時の胸部レントゲン映像に映っていた異常を力不足の判定医が見抜けないまま何年も経過し、分かった時には手遅れという事例を紹介しました。今日はその異常を発見する技(読影術)を、人間(医師)だけに頼らず、顔認証技術を応用したシステムにサポート(サジェスチョン)してもらうという新しい試みにつき紹介します。

大腸内視鏡で撮影した画像(下図)の読影に顔認証技術を応用し、人間(医師)が見逃しがちな異常を指摘できるシステムのプロトタイプができたようです。読影の能力の有無、高低によって、助かる命も助からなくなる可能性がある中での一つの解決策になると思います。

放射線科の医師、該当診療科の医師の読影技術は、持って生まれた注意力、ひらめき、勘の良さもありますが、何といっても実際に検査し、読影した現場経験がモノを言います。読影ではありませんが、手術でもそれが言えます。天才的な手技を持つ医師がいる一方、あまり手先が器用ではない医師もいます。しかし、後者でも何千件とこなせば、それなりの術後成績を出すまでになることを現場で見てきました。実験台になった患者は迷惑至極・・・

私が大腸内視鏡検査を受けている病院がありますが、この病院を選んだのも検査件数が日本で一番多いからです。全国から患者が来ますが、私も何回もやってもらいました。閘門からの挿入時も違和感なく、映し出される画像を見ながら丁寧な説明を聞き、幾度となくポリープを見つけてもらい、その場で切除してもらいました。多数の実績を踏まえた上手な検査と読影技術に感心したものです。

この場数を踏む間に、相当数の様々なミスが発生するのは否めないことですが、経験豊富な上位医師が立ち会うことで、知識経験不足、読影力不足によるミスを避け、経験を積み重ねることで一人前の医師になるわけです。読影する技術は、知識経験のみならず、オヤッ?と思うひらめき、勘が必要ですが、これは上位医師の指導、数多くの事例を見聞することで培います。これをコンピュータで支援できないか?と考えたのが今回の顔認証技術を応用した、読影支援のためのシステムです。

方法は以下のとおりです。
・5000件の大腸内視鏡検査画像を集める
・正常、異常、ポリープ、腫瘍などの属性を付ける
・経験データベース( heuristics database)に登録する

以上により用意した情報(知恵)を使い・・・
・検査した大腸内視鏡画像をマッチングさせ、似たような病変を見つける
・マッチング方法は、顔認証技術を応用
・一定の条件を満たしてマッチングしたと判断したらマーク(〇で囲む)
・読影する医師は、システムが示した❝怪しい部分❞を詳しく観察する


これにより、見落としが従来の24%から2%に激減したという実績が上がったというものです。顔認証技術を検査画像解析に応用できないかは以前より、医療機関、ITベンダなどで研究、試行錯誤されていましたが、今回の読影支援システムは具体的に成果を出した例です。経験データベース(heuristics database)に登録するデータを多くすれば、2%の見逃しを更に少なくでき、医師の知識経験、読影力によって見落とされて重篤な状態になってしまう悲劇を救うことができるようになるでしょう。もっとも、2%を0%に近づけるよりも、人間である医師の読影技術を上げてカバーするのが本筋ではないかと思います。人とコンピュータとの棲み分け、協力にもなります。なお、煽ることでアピールしたい不勉強なメディアの皆さんが、この技術を人工知能(AI)と定義しますが、そうではなく統計処理の結果であることを明確にしておきます。

バズワードと化した人工知能(AI)は、自律的に機能する本当の知能ではなく、大量データを統計処理して得られた法則性、規則性を知恵として利用しているに過ぎません。自動運転の車も画像認証と自動制御のたまものです。これに関しては、いずれブログに書くつもりです。

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