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Sin~罪狩り~3

 南南東、横山駅前大通り。

 たくさんの人が行きかうところ。

 あまりにも多すぎてSinの存在がつかめないよ。

 無表情で行きかう人々の心に数えきれないほどの罪が眠ってる。

 ねぇ、ハチ。

 困ったことになったよ。

 まったく携帯にコールがかからないよ。

 おじいちゃんが解き放った罪は…Sin。

 特殊な周波数を放つ目に見えない生き物たち。

 だからお父さんが改良して作ってくれた携帯電話型の探知機だけが頼みのつな。

 なのに…

 それにすら引っかからないSinがいるなんて。

 ううん、ハチ。

 存在はキャッチしてるよ。

 ちゃんと地図に反応してる。

 でもね、でもハチ。

 誰がSinを取り込んでしまったのか、検討がつかないんだ。

 地図にでてるのは広範囲に広がる赤い波紋の点滅。

 波紋の中心にSinがいるわけじゃなくて、あくまでも反応なだけ。

 罪はまわりの人たちに影響をあたえて大きく広がってゆく。

 その状態をすべて映してしまうから…

 自分が見つけなきゃいけないのはあくまでもSinそのもの。

 影響を受けた人たちの悲しい反応じゃない。

 根源を摘み取らないとSinの罪の影響は消えやしないから。

 ハチ、かたっぱしからなんて無謀だよ。

 どんな人にも罪は存在するもの。

 Sinとの区別がつかないまま戦えば相手の精神が壊れてしまう。

 あくまでもSinでなきゃだめなんだ。

 Sinを抱えた人からはこの携帯にコールがかかる。

 抑えきれない胸の内の声が自分へと届くんだ。

 助けて、と。

 でもまったく誰からもかかってこないよ、ハチ。

 Sinの影響下にいるのに、かかってこないなんて…

 もしかしたらターゲットは自らのぞんでSinと同化してしまったのかもしれない。

 罪に完全に染まることを受け入れてしまった可能性があるよ。

 助けを必要としないことは命を捨てたも同然なんだ、ハチ。

 どうしよう。

 このままではターゲットが死んでしまう。

 Sinに蝕まれて苦しみながら。

 Sinは永遠に安住の場所を求めない。

 いつでも新しいターゲットを狙ってる。

 そのために取りついたターゲットの欲望を食いあさって犯し終えては次へと逃げてゆく。

 それはターゲットの寿命を奪い取ること。

 そして己の罪をじわじわ世界へ溶かしこんでゆくこと。

 ハチ、Sin自体はさほどこわくないよ。

 強い意志で拒否すれば人はSinを取り込むことも悪影響を受けることもないもの。

 Sinの宿木になるのは罪を罪と思わない心の隙間をみせてしまった人間だけ。

 だからね、ハチにはSinは寄り付かないんだよ、きっと。

 ハチは正義の人だものね。

 自分はハチがいてくれるから正しい気持ちでいれるんだと思う。

 もっと世の中の人がそれに気づいてくれたらSinたちがはびこることもなかったのにね。

 今回のターゲットはどうしてSinを良しと思ってしまったのだろう…

 なんでコールをくれないんだろう…

 ハチ、人は弱さだけじゃない、て自分は思ってる。

 そう思ってる。

 なのに、今回はその想いが揺らぎそうだよ。

 どうしよう、ハチ…

 このままじゃ自分、Sinが見つけられないよ。

静かなふたりの時間 11

「おー遅かったじゃん」

 居酒屋ちょろりにのぶと入ると、もう生ビールの飲んではじめてるズミキョンがカウンター席から手をあげた。

「ども~」

 隣りにはスグロ君が座ってた。

「こいつも呼んだの」

 ズミキョンはスグロ君の肩に腕を置いて言った。

「あ、そうなんだ。

 てか、ふたりも仲良しだったんだ」

「おう、飲み仲間だ」

 ズミキョンがジョッキを手にしてスグロ君のジョッキにカチンと当てた。

「よし、座敷にいどうしようじゃー。

 ママ、移動するよ」

「はいはい、どうぞ」

 ズミキョンが生ビールを飲み干して、カウンターの焼き鳥数本と漬物をもって奥の座敷へと上がった。

 スグロ君もそれにならってついてく。

 のぶも「ん」といって私を後ろから押しながら座敷へとうながした。

 私はお店のママに会釈して、座敷へと上がった。

「あらやだ、もしかして真由ちゃん?」

 ママは久しぶりねー、とニコニコしながらお通しとおしぼりを持ってきてくれた。

「はい、ご無沙汰してます。

 父がいたときはお世話になりました」

「なつかしいわねぇ。

 真由ちゃんはいつものでいい?」

「あ、はい」

 ここは父が生前通ってたなじみの居酒屋でもある。

 私も小さい頃からよく連れてきてもらってた。

 大人になってお酒を飲めるようになってからは、父と同じポッピーを来たら必ず頼んでいた。

 ママはそれを覚えてくれていたのだ。

「オレとスグロはウーロンハイに変更ね。

 あと焼き鳥塩10本タレも10本追加で。

 ついでにおしんこも」

 ズミキョンがそういうと、はいはい、とママは笑った。

 店内を見渡すとあまり変わってない。

 私が知ってる頃とほとんど一緒だ。

 カウンターの上の壁に新しい地方のお土産のちょうちんが増えてるとか、知らない芸能人のサインが壁にふたつ増えてるとか、それくらいだ。

「あぁ、ここなつかしいや。

 落ち着く」

「オレらはいつもきてるからなぁ。

 なつかしいもなにもないけども」

 ズミキョンがスグロ君とのぶを交互に見て、「なぁ」と同意を求めた。

 ふたりも、うんうんとうなずいた。

 そっか、この三人はよく来るんだ。

 子供の頃のイメージだと、のぶは人見知りぽい、て思って炊けども…

 青年団入ったり、飲みにでかけてたり、なんだが意外なことばかり。

 ズミキョンやスグロ君はなんとなく居酒屋似合うのでわかるけども。

 のぶがねぇ。

 どこかのカウンターバーあたりでしんみりひとりで飲んでる方がイケメン顔には合うのにねぇ。

 顔、…飲むのに関係ないか。

「おまたせ」

 ママがポッピー2杯とコップ2個、ペットボトルのウーロン茶、焼酎と氷がはいった容器をテーブルに置いてくれた。あと漬物も。

「はい、真由ちゃんとのぶくん」

 ママは私とのぶの前にホッピーを差し出した。

「あれ? のぶもホッピー?」

「ん」

「若い子でホッピー飲むのうちの店じゃ真由ちゃんとのぶくんくらいねぇ」

 ママはにっこり微笑んで、ごゆっくりね、と戻っていった。

 ポッピーはうちの父の定番の飲み物だ。

 子供の頃からずっとこれしか飲まない人だった。

 しかもすごくおいしそうに飲んでたので、私も大きくなったらホッピーを飲む、と決めていた。

 実際、すごく飲みやすいのでぐいぐい飲んでた父の気持ちがよくわかる。

 うまい。

 ここでホッピーを飲むと、田舎に帰ってきたー、て気になる。
 
 母と姉はお酒が飲めない人たちなので、飲みに関して私は父に似たのだろう。

「のぶ、あんたもホッピー好きなの?」

 ぐびぐび飲みながら隣りに座るのぶにきいてみた。

 イメージ的にのぶはカクテルだろう、と。

「ん、オジサンが好きだったから」

 のぶは私を見てうなずいてから、ホッピーを飲んだ。

「あれ? あんたもしかして父さんと飲み仲間だった?」

「おいおい、のぶだけじゃねーよ。

 オレらもそうだら」

 ズミキョンとスグロ君がウーロンハイを前にだして私とのぶのジョッキに交互にカチンと当てた。

 私もあわてて「あ、乾杯」とジョッキを上げた。

「おまえんとこのオジサンさ、有名人だったら。

 地元の飲み会行けばどこにでもいる感じでさ」

「そうそう、いましたねーいつも。

 しかも憎めない性格なんでみんなに好かれてましたよねぇ」

 スグロ君が「良いお父さんでしたよ、先輩」とコップを上げた。

「考えてみれば父さん、ホント年下の子と飲むの好きだったもんなぁ。 

 夏休みなんかさ、大学生がホテルのバイトでくるじゃない?

 そんな子達見つけては飲みに連れ出してたもん。

 あー思い出してきたそんなことばっかり」

「ん」

 のぶがうなずいた。
 
「オレもオジサンにけっこうおごってもらったからなー」

「あ、ボクもですよ」

 ズミキョンのコップに焼酎とウーロン茶を足しながらスグロ君が言った。

 そっか、飲み友達とはいってもスグロ君はズミキョンをちゃんと先輩として扱ってるんだなぁ。

 敬語使ってるし。

 …のぶはてんでかわらないけども。

「のぶ、のぶ、あんた敬語は?

 ズミキョンやスグロ君、あんたの先輩でしょ。

 てか、あんたウーロンハイとか作ってあげれば? スグロ君にさせないで」

「それはお断り」

「あ、そうですか…」

 私があきれるとスグロ君とズミキョンが「のぶはそれでいいから」と笑った。

「のぶがオレらにこびたら気持ち悪いら。

 こいつはこのまんまじゃないとな」

「ん」

 ズミキョンがそうゆうとのぶが当然という顔でホッピーを飲みほした。

 なんだかよくわかんないけども、のぶはのぶで好かれてる、てことなのだろうか。

「焼き鳥おまたせー」 

 ママとは違う女性の声がした。

 振り向くと、焼き鳥の皿を持ってにっこり笑っているちょっとケバイ化粧の人が立ってた。

「おーアミちゃん、遅いよ~」

 ズミキョンがアミちゃんと呼んだ女性の皿を持った手を握って、にやにや顔で言った。

 ちょっと酔っ払ってきてるな、ズミキョン。

 てか、この人誰だ?

「ごめね、ちょっと洗濯物してたから遅くなっちゃった。

 ていうか、ズミさんもういい加減に手を離してよ。

 お皿おけないじゃない」
 
 アミさんは笑いながら私をちらりと見て会釈したので、私もつられて会釈した。

「おー真由、おまえアミちゃんお初だよなぁ~そかそか」

「うん、…お初ですけども」

 ズミキョンがあまりにもご機嫌なので、なんだか敬語を使ってしまった。

「アミちゃんは去年からこの店手伝いにきてる北海道出身の子だ。

 前はコンパニオンしてたけども、今はここにきてるんだよね、アミちゃん~」

「うんうん、そうそう。

 ズミさんの言うとおり」

 アミさんはニコニコしながら私に「よろしくね」と言った。

「あ、アミさん、馬刺しあります?」

 スグロ君がアミさんにたずねると、「あ、あるある、食べる?」と言うと、スグロ君が「お願いします」と注文した。

「じゃついでにおかわり」

 のぶが空ジョッキをアミさんにさしだしたので、「あ、私も」と自分もジョッキ空にして渡した。

「ふたりともホッピー?」
 
「あい。

 あ、ついでに冷奴と豚足もお願いしまーす」

 私がさらに注文追加してもアミさんは嫌な顔せず気持ちイイ返事で、

「はい、了解です」

 と言ってくれた。

 けっこうハキハキしてる人かもしれない、アミさんて。
 
 化粧は少しケバイけども、話す声の感じがはつらつとしてる。

 ぱっと見だと私たちくらいかな、て気がしたけども…

 もしかしたら年齢は25くらい、かも。

「ね、のぶ。

 アミさんて、いくつくらい?」

 のぶにたずねたら「24才だよ、若いよなぁ~かわいいよなぁ~」とズミキョンが嬉しそうに言った。

「小泉先輩はアミさんにほれてますもんねぇ」

 スグロ君がにやにやしながらズミキョンの腕をひじでつっついた。

 そか、ズミキョンのお気に入りなのか、アミさんて。

 なんかちょっと複雑だ。

 でも見るからにアミさんはズミキョンを相手にしてないぽそうなので、まだ許せるかも。

 やっぱり好きだった男が女見てデレデレするのはあまりイイ気はしないしなぁ。

 たとえ酔っ払ってたとしても、だ。

「ん。

 顔にしわ」

 のぶが私のももをぺしとたたいた。

「痛っ。

 ちょっと、のぶったたかないでよねー」

「しわよくないし」

「私、しわでてた?」

「ん。

 眉間にあった」

 えー、なんでだろ?

 まぁズミキョンのせいではあるか。

 というか、のぶ、よく見てんなぁ、私の顔。

 やめてほしいわ。

 眉間にしわよせてるとこ見られちゃ、やっぱ恥ずかしいし。

 私がズミキョン好きだったってばれそうだし。

「そうだ、そうそう、のぶ、あんたカエちゃんどうよ?」

「ん?

 なにが?」

 とりあえず話題を変えてみた。

 のぶとカエちゃんをくっつけて、カエちゃんに男紹介してもらう作戦をすっかり忘れてたから。

 まぁカエちゃんが男を紹介してくれるかはわかんないけども。

 でものぶがひとりもんでいるよりはふたりをカップルにしちゃう方がいいだろう。

 幸せな二人がきっと私に感謝して私の幸せを探してくれるに違いない。

 私に感謝したのぶがズミキョンとの仲をもしかしたらとりもってくれるかも、だし。

 ここは恩をうっとかねば。

 うんうん。

「ねぇ、のぶ。

 あんた今好きな人っているの?

 いないでしょ? どうせ。

 ならさ…」

「ん?

 いるよ」

  ――ぇ? 

部屋

 ちょっとしたことでもイライラがつのる
 
 ぶつけたい怒りをどこへやればいいんだろう

 もてあましたこのくだらない今を

 どうか清算させて

 変わらない日々は安らぎかもしれない

 でも望んでるものは違うんだ

 たいくつから抜け出して

 全力で泣きわめきちらしたい

 自分を爆発させて

 今を変えたいだけなんだ

 どうしてじゃまをするの

 自分の人生なのに

 足をひっぱられるのが悔しくて

 哀しい

 なにもできない箱の中

コーヒー、飲む?

 真顔より

 笑顔が好きで

 そばにいる

 あまり悩まず

 ふたりでいよう

着信は…

 友だちとの約束を優先する君をせめるつもりはないけれど

 君がどこかで笑いあってる時間にひとりテレビみてるだけ

 自分もでかければいいのだけどもいつくるかわからないから

 部屋をでることこできずに携帯みながらただ待ちぼうけ

 君の自由をみとめてはいるけどもどうしてこんなに心沈むんだろ

 もし自分が自由にふるまったならきっと君心配するでしょう?

 だからできないよ

 たぶんできないよ

 君が好きでいてくれるよりもこっちがはるかに君を好きだから

 想えば想うほどになんだか自分をしばりつけてくみたい
 
 別に君がそうなれっていったわけじゃないのにね

 かってにひとりでそうなっちゃってるだけだから

 ただねただ…君と付き合いだしてから夜がとっても長いんだ

 好きすぎてさみしいんだよ 

 いつこれは消えるんだろう

 君と付き合いだす前の自分がひとりなにしてたのか

 まったく思い出せないほど携帯ばかり見つめてる