春の風が吹いて | 忘れちゃうひととき

忘れちゃうひととき

青臭い駄目人間の、イカ臭い日常を、小便臭い文章で、つらつらつらと書き綴っていく予定です。それ以上でもそれ以下でもそれだけでもありません。

今日は暖かい。

珍しく午前中に目覚めた僕は、僕を捕らえて離さないベッドという名のアウシュビッツから、「このままここに横たわっていると、二度寝という毒ガスにやられて、いよいよ真っ当な人間としての生活を送れなくなってしまう」と奮起し、後ろ髪を引かれながらも脱出することに成功した。

今日は暖かい。
ジーン・ケリーが傘を振り回しながら「I'm singing in the rain~♩」と歌い出しそうな程に雨が降っていた昨日とは打って変わって、「晴れ!」とまではいかないものの、頗る過ごしやすい薄曇りの空模様である。

ラーメンを食べに行くことにした。
なんだか面倒臭いので、髭も剃らなかった。
ペインターデニムにカーディガン、ボサボサ頭に不精ヒゲ、古着屋で買った缶バッジ付のミニショルダーという出で立ちだ。
元スタイリストでコーディネートにうるさい母は、僕を一瞥すると「ヒッピーみたい。フラワームーブメントも桜も、もう散っちゃったわよ」などと言い、果物ナイフの先端に剥いたばかりの林檎を突き刺して、僕の口元へそれをグイッと寄せた。

林檎をシャクリシャクリと噛みながら「いっふぇまひりまふ」と母に告げて玄関を出ると、僕は自転車に跨った。

春の風が吹く。
今日は暖かい。
いや、正確には、自転車を漕いで前進しているので、僕に空気抵抗が生じる。
小学校の前を通る。
体育の授業中なのだろう。
体育着に身を包んだ小学生たちが体育座りでジャージ姿の先生の話をボーッと聞いている。
小学校のグラウンドをぐるりと囲うように立ち並んだ桜から、桜の花びらがヒュルリーラヒュルリーラと歌いながら舞い散る。
花は、殆ど散ってしまっていた。
ほんの戯れのつもりで、「花びらに当たったら、ラーメン屋に到着するまでずっと立ち漕ぎをする」という発作的自分ルール縛りのゲームを開始すると、スタート直後に花びらが一枚カーディガンにくっついた。

今日も、僕には何も起こらない。
何処かで誰かに何かが起きているかもしれないし、これから起こるかもしらない。
でも、僕には今のところ何も起こらない。
それが良いのか悪いのかは分からないが、僕は立ち漕ぎをし過ぎたせいで太腿がひどく痛い。

まぁ、何はなくとも、今日は暖かい。
それだけは本当だ。


おまけ写真。
photo:01


まだ元気だった頃の桜さんの姿。
享年約二週間。


♩今の気分的一曲
風をあつめて / はっぴいえんど