騒がしい隣室 | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

八光流柔術の練習日おれは、道場として借りている自治会館の2階で弟子を待っていた。


この日来る弟子は1人だけだったが午後8時からの予定が突如1時間遅れると言う連絡があった。


おれは、待つ事は苦にならない質なので適当にストレッチでもしながら待っていようと思った。


それにしてもこの日は隣室がやたらと騒がしい。


襖を隔てた隣室は、保育所の保護者会をやっていて父兄が子連れで集まっていた。

その子供達がギヤーギャー騒いでいる。


おれは、暇潰しに刀術の練習をする事にした。


八光流には刀術もある。


木刀を振っていると背後に視線を感じて振り返ると襖の隙間から子供が覗いていた。


おれは初め無視していたが、何人かの子供が入れ代わり覗いてはヒソヒソ話し合っている。


「チェッ」とおれは、襖の隙間を閉めに行った。


子供達の一人が「うわっ こっち来た!」と言うと襖の向こうの子供達は「ヒャーッ」と恐がってるのか面白がってるのか分からない声を上げて襖から離れる。


襖を閉めて再び木刀を構えるとまた背後でコトッと小さな音がして振り向けば子供が覗いている。


おれは段々ムカついて来たが、ここは鬱陶しいガキドモは無視して刀術に集中した。


襖の向こうでは、子供達がまたヒソヒソ何か話している。


30分程しておれが刀術に飽きて来た頃 隣室の会合が終わり親子は、帰り支度をしているようだ。


「ヤレヤレやっと静かになる」と思っていると襖の向こうから「バイバイおじちゃん」と数人の子供達の声が聞こえた。


別にこいつらに挨拶される筋合いは無いと思って黙っていたら再び「バイバイおじちゃん!」とさっきより多人数の声が聞こえた。


おれは道場の真ん中に胡座をかいて座り「フンッ おれに懐くな」とふて腐れて呟いた。


子供達が帰って暫くすると1階の玄関の戸が開く音がした。

弟子が来た音だった。



おれは、子供は嫌いだ。

しかし保育士のライセンスを持っている。


何故子供嫌いなおれが、そんな物を持っているのか?

それについては、別に確たる理由は無い。

只の成り行きだ。