ダークヒーロー イン・ザ・スクール (42)  | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

そうこうしている内に目的地である市民会館に到着した。


その日の映画は、二本立てだった。


一本目の「怒り地蔵」は反戦映画で原爆の悲劇を訴える内容でラストの被爆した少女が地蔵の足元で息絶えるシーンは、戦争の悲惨さ残酷さが強烈に表現されていた。


おれが、この映画を観終わって戦争や原爆に憤りを感じ主人公の少女を深く哀れんでいると後ろの席から「しょうもな わざとらし」と言う声が聞こえてた。


振り向くと例の4年男子が居た。


二本目は「こんにちはハーネス」と言う盲導犬と人間の心暖まる感動のドラマで犬好きなおれは映画が終わってからも余韻に浸っていた。


ところが、またそこで「白々し アホくさ」と言うあいつの声が聞こえた。


おれは、こんな奴に何を言っても無駄だと思いここでも無視する事にした。



映画の後 本物の盲導犬の女性訓練士が「今からこの盲導犬を連れて客席を廻るので手を出したり大きな音を立てないでね」と客席の通路を盲導犬と並んで歩き出した。


見事な脚側行進だった。


やがて盲導犬と訓練士が、おれの席を通り過ぎようとした時 後ろの席のあいつが「オラッ!」と言いながら盲導犬の前に足をドカッと踏み出した。


盲導犬は、即危険を察知しピタリと止まった。


しかし おれは止まら無かった。

おれは、その4年男子の胸倉を掴んで吊り上げ「バシッ!」とビンタを飛ばした。

当然 力加減と叩く場所は、充分気を付けて飛ばしたビンタだったが叩かれた本人は、驚いて言葉を失っていた。

おれが「文句あるか?」と聞くとあいつは力無く首を横に振った。


会場内が静まり返った。



その日 学童保育舎に戻ってから「何があっても暴力だけは絶対駄目!」

と他の指導員達から散々お叱りを受けた。


おれは「言われ無くてもビンタについては反省してますが、その事であいつやあいつの親に謝る気は全然無いです」とキッパリと言った。


おれは、もし謝る位なら学童を辞める覚悟だったが、結局この件は大事にならずに済んだ。

今の時代なら即刻免職だろう。



今にして思えば おれは、あの時あいつにおれ自身の捻くれた嫌な部分を見ていたのかも知れない。


だが、捻くれていてもおれには正義感がある。

例えその正義感が時には、トラブルの元凶になったとしても それはそれで間違いじゃ無いとおれは思っている。