ダークヒーロー イン・ザ・スクール (40) | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

各指導員が、一人ずつ自己紹介を兼ねた挨拶をする段取りになっていた。


やがておれの順番が回って来たのでその場に立ち上がって挨拶しようとすると他の指導員の時より室内が妙に静まり返った。


およそ学校と言う領域に不似合いな男が、どんな人間でどんな事を話すのかと父兄達は、一斉におれの挨拶に注目した。


おれには、こんなに注目される程気の利いた挨拶をするのは無理だ。


取り敢えず自分の名前と役割だけ言って座ろうと思ったが、父兄達が物足りなそうだったので何か一言付け足そうと思い

「えぇーぇ 縁は、異な物味な物てな事を申しましてぇ」と切り出すと横に座っていた例の少女が思わず「落語か!」と突っ込んだので父兄達は、緊張の糸が切れたようにドッと笑った。

指導員や子供達も笑っていたが、おれはその後どんな話をしたか覚えていない。



入所式の最後は2~4年の児童による新1年を歓迎する合唱で終わる事になっていた。


歓迎の歌は二曲だったが、二曲共知らない歌だったのでおれは、他の指導員達のように手拍子もせず部屋の片隅で壁にもたれて腕組みをして立っていた。


二曲目の歌の中に♪何故か寂しそうな顔をしてるじゃないか おれ達の青春てそんなもんじゃないぜ♪と確かそんな歌詞があった。


歌がその歌詞に差し掛かった時会場に笑いが起きた。


この時 前で並んで歌っていた4年生女子が全員同時におれを指差していた。おまけにその指を曲に合わせておれに向けてツンツン動かしている。


おれは「チェッ」と舌打ちして下を向いた。


そうこうしている内に入所式が終わり父兄や子供達も帰って行った。


仕事を終えて指導員達とお茶を飲んでいると「4年の女子達には参ったね」と言って年配の指導員が笑った。

おれは「あいつらが、あんな作戦を立てているとは思いませんでした」と邪魔くさそうに言った。

そして「別におれは、寂しくないですけど」と付け足した。


もう一人の指導員が「先生は、可笑しな挨拶したり黙ってしょんぼり立ってるだけなのに結局主役の座を奪っちゃうからずるいなぁ」と膨れて見せた。


「しょぼくれた主役ですみませんねぇ」とおれは愛想なく言って苦笑した。