黒犬伝 その14 (前編) | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

黒い北海道犬アクは11才になった。


年齢の割には、年老いた感じは無かったが、無益な闘いは避けるようになっていた。


30年以上前の元旦おれ達一家は、アクも伴って暴れん坊爺さん(祖父)の家に行った。


爺さんは、アクを非常に気に入っていたのでアクを連れて行くと機嫌が良かった。


アクも爺さんに懐いていた。


ところが、婆さんは犬嫌いでいつも土間に繋ぐようにと煩かった。


爺さん宅は、京都のいわゆる町屋で玄関を入ると土間がありそのまま鰻の寝床のように狭い通路を進むと台所があり更に進むと中庭に出る。

京の町屋とは、大体こんな構造になっていた。


アクは、その町屋の構造を利用して飛んでも無い悪事を働いた。


元旦のその日 アクは、爺さんと散歩に出掛けて御所を一回りして帰って来た。


おれは、アクをかなり太いロープで土間の柱に繋ぎ「もうすぐ飯食わしてやるからちょっと待ってろ」と言って居間に入った。


その時 他にもやる事があったので15分程アクに餌を持って行くのが遅れた。


この僅かな時間が、アクにとって犯行時間になった。



後編に続く