黒犬伝 その8(前編) | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

30年以上前 黒い北海道犬アクが生きた時代は、放し飼いの犬や野犬が多かった。

従ってアクの喧嘩相手は、何処にでもいた。

西山連峰にポンポン山と言う妙な名前の山がある。
山頂付近で足を踏み鳴らすと「ポンポン」と言う音が鳴ると言われている。

ある日 おれとアクそしてアクの親友でジャーマンシェパードのゴローとその飼い主の海苔屋の社長は、ポンポン山に登った。

人の気配の無い山を歩く時は、犬達のリードを外していた。

いつものようにアクは、獣の匂いを嗅ぎ付けて山中に姿を消していた。

その頃のアクは、おれの悪戦苦闘の訓練で犬笛によって呼び寄せる事が出来るようになっていた。

ゴローは、おれの傍にいた。

山頂まで後少しの所で おれとゴローは、前方の藪の中から迫る怪しい気配に気付いた。

おれ達が、立ち止まると 藪の中からジャーマンポインターが出て来た。

この犬が、野犬だと言う事はその汚れようと目つきで分かる。

「しまった いつの間に」
おれは、自分の周囲を見て焦った。

おれ達は、ポインターに気を取られている内に野犬の集団に取り囲まれていた。


後編に続く