陰の稽古控え | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

変人揃いの我が道場に例に漏れず妙な女子の弟子が居る。

彼女が入門して4年位になるが、今もって全く武道家らしくならない。

彼女は、武道家としては明る過ぎるし軽過ぎる。
感情が表に出やすく激しい技に掛かった時等は、素直に叫び声が出る事もある。

おれの技は時として必要に応じて非情な技に変わる事がある。
おれは、そんな時も決して感情を表に出さない。

早い話が、彼女はおれと真逆のキャラクターだと言える。

彼女のようなキャラの弟子は、おれのようなダークなキャラの師範には着いて来れないと思っていた。

恐らく彼女は3ヶ月以内に辞めると予想していた。
ところが、4年経った今もそのままのキャラで続いている。


ある時おれは、彼女が練習の際にノートを取っている事に気付いた。
このノートの中身は、おれの想像を超えている。

おれの教えた技やその要点を実に上手く記述している。
文章を更にイラストで捕捉してある部分もある。

おれは、それまで彼女を軽く見ていた気がした。
そして彼女は、彼女なりのやり方で技を身に付けようとしてしている事が解った。

個性派揃いの弟子達の中でカラーは、違っていても彼女も立派におれの弟子だと確信した。


それにしても あのノートには、おれ特有の技の秘訣や要領が非常に上手く表現されている。

「あのノートおれの道場以外の人間に見られたら おれの技を盗まれる事になるかもなぁ」とおれは、他の弟子に言ってニヤツいた。
その弟子は「師範の話を文章やイラストにするなんて大したもんだ 僕ら絶対無理ですよ」と感心していた。

おれは「武道家らしく無いおれの話を武道家らしくない弟子が、上手く記述しているって所が如何にもうちの道場らしいぜ」と一人で納得していた。