ダークヒーロー イン・ザ・スクール(21) | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

「先生が女子を泣かした!」と4年男子が大声で騒ぐので おれは段々腹が立って来た。

「人聞きの悪い事を言うな!ちょっと手が当たっただけだ」とその場におれは、ドカッとあぐらをかいた。

その日の仕事が終わってから古参の指導員が、おれに話し掛けて来た。
そして その指導員から問題の2年生女子の話を聞かされた。
話によると 少女の父親は、半年前に亡くなっていた。
元々内気な少女は、益々塞ぎ込んでしまった。
「最近 妙におれにくっついて来るので何だろうと思ってたんです」とおれが言うと古参の指導員は「きっと男の先生に父親の面影を見ていたんでしょうね」としんみり言った。
「父親なんて柄じゃ無いですよ」と言い捨てておれは、学童の部屋を出た。

次にその学童に行くまでの一週間 おれの頭の中は少女の泣き顔が支配していた。
あの少女は、おれに邪険にされたと思ってあんなに泣いたんだろう。(クソッ たかが子供1人泣かしただけじゃないか)と自分に言い聞かせてもおれの
罪悪感は消えなかった。

やがて一週間経ち例の2年生女子の居る学童に行くと少女は、本棚の横に座って本を読んでいた。

おれは、少女の前に片膝を着いて「この前は、ごめん」と心から謝った。
「本当にごめんな」と今度は正座して詫びた。

少女は、ゆっくり頷いた。

おれは、それ以上成す術もなく立ち上がって歩き出した。

少し歩いた時 その少女がおれの右腕に抱き付いて来た。

おれは、嬉しかった。
「何か照れるぜ」と呟いていると一部始終見ていた若手の指導員が「先生 普段子供は嫌いとか言ってるけど本当は好きなんでしょ?」と冷やかすように言った。

そこへ空気を読まない暑苦しいイノシシ少年が、背後から飛び付いて来た。
おれが体をかわして避けつつイノシシ少年の背中を軽く押すと少年は前方の壁にぶつかって崩れ落ちた。

「ヒーッ!」と若手の指導員が大袈裟に叫んだ。

「いや 嫌いです」と立ち去るおれを少女が嬉しそうに追い掛けて来た。