山道で待っていた(前編) | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

去年の猛烈な台風の1ヵ月後 大阪方面へ出張治療に出た。

おれは、車と信号が多い上に景色の悪い国道を避けて山越えの道を選んだ。

この日の患者は、付き合いが長いわりには相性の悪い70代前半の親父だった。
前回の治療の時も治療以外の些細な事でクレームを付けられて おれは、腹に据えかねていた。
後1回でも下らないクレームを付けて来たら こちらから縁を切る事を考えながらおれは山道を車で走っていた。

台風の影響で山は荒れていた。
路上には折れた枝や木の葉が散らばり かなり太い木が倒れていたりもする。

車を走らせながらも山の木々のどよめきが伝わって来る。

峠を越え 幾つか深いカーブを曲がった所で前方50メートルの道端に黒い奇妙な物体が立っているのが見えた。

昼間とは言え薄暗い山道だからおれはその物体が山の斜面から滑り落ちた朽ち木だと思った。

だが、車が物体に近付いた時 その物体がノソッと動いた。
おれは、驚いてブレーキを踏んでスピードダウンした。


そして その正体が分かった時 思わずおれのハンドルを握る手に力が入った。
その手には、汗が滲んでいた。


後編に続く