デンジャラス・スイーツ | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

おれが、出張治療するのは、出歩くのが困難な重い症状の患者や高齢者が多い。

護身術の心得としては、何処へ行くにも 警戒心を怠ってはならない。
例え馴染みの患者宅への出張であっても同様だ。

その日の出張先は、慢性腰痛の80代半ばの婆さんの家だった。

1時間位の治療後「先生 お茶でも飲んで行って」と 婆さんは、テーブルの上に渋茶と饅頭を用意してくれた。この饅頭は、スーパーなんかで売ってる大袋の中に幾つかの饅頭が小袋に入った状態で売っているやつだ。

甘党のおれは、早速小袋を開けて饅頭を手にした。
饅頭は、全体に抹茶をまぶした緑色の抹茶饅頭のようだった。

この日 おれは、花粉症の為 臭覚が鈍っていた。
治療に没頭して点鼻薬を使う暇が無かったのも災いした。

おれは、一口饅頭を口に入れた所で口と体の動きを止めた。
鼻は詰まっていたいても口から鼻に抜ける臭いは、分かる。明らかにカビの臭いだった。
恐るべきことに饅頭全体を緑色に覆い尽くしていたのは、抹茶ではなくカビだった。

おれは、口の中の物を全て吐き出した後 何度もうがいをした。
それでも鼻の奥にカビ臭が残っているような気がする。

何事かと驚いている婆さんに 食品衛生の指導をキッチリして おれは、婆さんの家を出た。

こんな事は、初めてじゃない。
他の出張治療先でも何度も危ない思いをした事がある。

出張先で デンジャラスな食品を出される際 相手には、何の悪気も無ければ殺気も無い。

善意の中に潜む危険性を察知する事が出来るのか?
おれには、それが難しい。