忘れる事も | 八光流 道場記

八光流 道場記

京都で約30年、師範をやっております。
つれづれなるままに書き綴ってまいります。

夜の8時から治療予定だった患者が来なかった。
翌日 本人から詫びと予約の取り直しの電話が掛かった。

治療日を忘れる患者は、たまに居る。

患者に忘れられるようじゃおれもまだまだって事か とおれは、治療テーブルの上に横になって八光流の皇法指圧を学んでいた頃を思い出していた。
そう言えば師匠は「治療師は、忘れられる位が丁度ええんじゃ」と 言っていた。「どうしてですか?」と 聞くと「治療師や治療日の事が、頭から離れないような患者は、治療効果が出ておらん事になるじゃろう」と 師匠は、当たり前のように言った。

おれは、ゆっくり治療テーブルの上で身を起こし「なるほどねぇ」と 呟いた。

その一週間後 治療日を忘れていた患者が着た。
「本当に すみません うっかりしてました」と 謝罪する患者におれは、言った。
「気にしなくていいですよ おれの顔がチラついて仕方ない時は、体調が良くないって事ですからね」

おれは、指圧の練習は好きじゃ無かった。
そもそも柔術以外に興味は無かった。

しかし そんなおれでも 師匠が理想とするような治療師に少しは、近付いたのかも知れない。