(紹介)マルコム・フォリー『セナVSプロスト 史上最速の“悪魔”は誰を愛したのか!?』 | 日日不穏日記・アメブロ版

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 セナがタンブレロコーナーで事故死したことを機にF1を離れたファンは多かったと思う。僕は離れはしなかったけれども、レースにのめり込み、一喜一憂することは少なくなったのは間違いない。トップを走り続けたまま、逝った最速のドライバー。セナは伝説となり、必ずしも好意的に受け止められなかった当時の“セナの行為”も正当化されたりもした。

 今年、全世界に先駆けて公開された「アイルトン・セナ~音速の彼方へ~」もアイルトン・セナ財団の全面協力で作られただけあって、謳い文句にある「真実のドキュメンタリー」には程遠い徹底的に“セナ目線”で作られた作品になってしまっている。

 貴重な映像が提供された作品だけに、セナからのF1に対する姿勢を知るという面では、価値があるとは言え、逆にプロストが語るセナの“物語”があったも良いじゃないか・・・と強く思った。そこで行きあたったのが、本書だ。



 2008年夏、53歳を迎えたプロストをパリに訪ねる著者。セナとプロストのレース人生を振り返るドキュメントとして本書は進行し、その時々に現在のプロストの回想が編み込まれる。

 本書の一番の価値は、そこにあると言って良いと思う。もちろん、プロストの回想がすべて正しいとは言えない。同時代を走ったドライバーの当時のコメントや、その後の自伝、取材などでは、必ずしもプロストの発言を補強するものになっていないのも確かだ。

 マクラーレン時代末期のプロストとホンダの関係に関するプロストの発言などは、評価が分かれることだろう。そもそもセナ自身が語る術を持っていないのだから、完全に公平な立ち位置の本など作れるわけがないのだ。



 前述の映画「音速の彼方へ」の一番の見せ場が94年のイモラであるのと同様に、本書もプロストなきあとの“セナの孤独”が僕にとっての一番の読みどころだ。最大のライバルを失った(追いやった)セナが何度もプロストに復帰を懇願する電話をしてきたこと、レース直前にセナから、プロストに歩み寄って、最後の時間を共有したことなどは初めて聞く話で興味深い。

 セナはいろいろな問題を抱えていた。全てをレースに捧げてきたセナが、もう、かつてのセナではなくなっていた。「彼の人生は、もはやレースだけではなくなっていた・・・」(アラン・プロスト、P.355)

 謎とされている事故の“真相”は、最後にあるデイモン・ヒルの証言が、数ある“説”の中で、最も真相に近いように僕には思える。プロストの証言、そしてこのヒルの語った言葉を読むだけでも、本書を買う価値はあると思う。

(2200円+税 三栄書房、2010.7)