品格さまざま(59) | 俳句の里だより2

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東京都知事の品格

 

このシリーズでは、これまで主に政治家(国会議員)や役人(エリート官僚)の品格について取り上げ、彼らが如何に品格に欠ける人物かを、数多くの実例を挙げて述べてきた。前回は、最近連日のように世間を賑わしており、また、これまで取り上げた人物と比べても、品格の無さでは最上位に属すると思われる斉藤兵庫県知事(46歳)について記した。斎藤氏は東大卒の元総務官僚から2021年に自民党や日本維新の会の推薦を受けて兵庫県知事に初当選したが、職員へのパワハラや企業からの物品授受(おねだり)疑惑などにより県の局長(60歳)から告発された。これに対し、県は斉藤知事の意向を受けて内部調査を行い、告発文書の内容は事実ではなく誹謗中傷に当たるとして局長を解任し、さらには「うそ八百」「公務員失格」と断じて停職3ヶ月の懲戒処分まで行った。

 

しかし、県議会や県民から、県の内部調査に対する中立性が疑われ不信感は広がったため、本疑惑を調査・審議するための百条委員会が設置された。そして第3回の百条委員会(7月19日開催)で局長が証人として出席予定だったが、7月7日に局長は委員会で話す予定だった陳述書や「死をもって抗議する」というメッセージ、斎藤知事が公務中に県特産品のワインをねだるようなやりとりが記録された音声データなどを遺族に託して自殺した。選挙戦で知事を推薦した自民党県議会や県民など周囲からは知事へ辞職を強く迫ったが、知事は頑としてこれを拒絶し、飽くまでも知事の椅子に固執している。そこに見えるのは、東大卒でエリート官僚卒の典型的な人種が持つ品格というか人格であろう。

 

そんな兵庫県知事の品格とは少し異なるが、先の東京都知事選で勝利し、3期目の都知事に選ばれた小池東京都知事(71歳)もまた、品格に欠ける点では優るとも劣らないと言ってよい。選挙では、対抗馬と見られていた蓮舫氏などの2倍以上の得票数を獲得して圧勝したが、選挙戦の途中では東京都民の一部にカネをばらまく公職選挙法違反疑惑があり、また前回の都知事選でも浮上した学歴詐称疑惑が今回もまた再浮上し、さらには「裏金疑惑」の自民党との密接なつながり(裏推薦)など、多くの疑惑や批判のネタを抱えていた。

 

それでも圧勝したのは、自民党及び同じ与党の公明党の「強力な」推薦・支持があったことと、学歴詐称疑惑や公職選挙法違反疑惑がSNSでは繰り返し報じられていたが、マスメディア(テレビ、新聞)での報道がほとんどされず、多くの都民が知らなかったことも大きな理由であろう。もちろん、そのような疑惑を知っていて、そのような人物に投票した有権者の方にも大きな責任がある。小池氏の品格の無さや人格の欠如を疑うが、それ以上に投票した有権者の品格や人格を疑いたくなる。彼らは小池氏の学歴詐称や公職選挙法違反をそれほど重大な問題とは考えていないのだろうか。それとも、SNSなど「うそ八百」であり、小池氏に限ってそんな疑惑は違反は絶対にしていないと考えているのだろうか。都民にカネをばらまいてくれる小池氏が女神のように思えているのかもしれない。

 

以前にもこのブログで書いたように、小池都知事の8年間の都政には数々の問題があった。神宮外苑の再開発や築地市場跡地、日比谷公園、東京五輪選手村(現・晴海フラッグ)など都心の大型再開発プロジェクトを三井不動産が一手に受注し、この三井不動産のグループ2社には都庁幹部OB14人が天下りしていた。まさに小池氏と三井不動産はズブズブの癒着・利害関係であり、「裏金問題」のパーティ券も三井不動産は購入していた。東京都が晴海フラッグの広大な都有地を近隣地価の9割引きで叩き売る売買契約をしたが、これも小池都知事が絡んでいた。また、無駄な事業で悪名高い「東京都庁舎壁面のプロジェクションマッピング」(総予算は2年間で約48億5千万円)の業務委託先は、あの東京五輪(入札談合事件)で入札停止中の「電通」の関連会社(電通ライブ)であり、小池氏は「電通」とも癒着していたことが明らかとなった。

 

そのような3選を果たした小池都知事に対して、都知事選前に3件の刑事告発がされている。すなわち、1件目は、6月18日に小池氏の元側近で元都特別顧問の小島敏郎氏が、小池都知事が学歴詐称の疑いがある(小池氏がエジプトのカイロ大学を卒業していないのにカイロ大卒という肩書を長年公表し、学歴に対する疑惑が生じても訂正しなかった)として、公職選挙法違反(虚偽事項の公表)罪での告発状を東京地検に提出した。2件目は、6月26日に都民ら175人が、東京都内の52区市町村長が小池知事に知事選出馬を要請したことを巡り、5月に調布市の長友貴樹市長に要請を打診した疑いがあるとして、公職選挙法違反(公務員の地位利用)容疑で東京地検に告発した。そして3件目は、7月5日に郷原信郎弁護士と神戸学院大学の上脇博之教授の2人が、動画配信もされている都知事選挙の期間中の記者会見(6月28日の定例記者会見)の場で、選挙運動に対しての質問に有権者の反応を具体的に説明したとして、公職選挙法違反(公務員の地位利用)容疑で東京地検に刑事告発した。

 

これらの刑事告発に対して、今のところ小池氏も東京地検も特に目立った動きはないが、元東京地検特捜部で、その後国会議員として小池氏の側近も務めていた若狭勝弁護士は、21日のテレビ番組で「今回の選挙を巡って、小池さんはいろいろと刑事告発をされている。その行方として、検事をやっていた経験から『公務員の地位利用による選挙運動の禁止』については、証拠が集まって、犯罪が認められる可能性がある」と指摘した。

 

さらに「知事という公務員の立場を利用して、東京都内の市長や区長、村長などに対して、出馬要請文を書かせたという疑いがある。区長や市長は地元で選ばれている。そういう文章を書かせるということは、有権者がなびく可能性があるので、悪質性がある。特捜部がこれから捜査をするはず」とし、「少なくとも罰金くらいの裁判、起訴する可能性がある。刑が確定すれば公民権が停止されるので、失職する。小池さんが最高裁まで争っていれば、4年くらいはかかるので、3期目は無事に終えるかも分からないけど、世論が高まれば、続けることが難しいと辞めてしまうと」と話した。

 

ただ、かつての安倍元首相の場合同様に、小池氏に対して検察がこの告発状を受理し、すぐに捜査・摘発に乗り出すかどうかは不確かであり、その心配は大いにある。いずれにしても、今後の捜査の進展は、検察のやる気にもよるが、小池氏の品格や人格によるところが大きい。バイデン氏のように思い切って撤退を決断するか、それとも岸田首相や兵庫県知事のように権力の椅子にいつまでもしがみ続けるのかどうか注目したい。