竹取物語の中の和歌 | 俳句の里だより2

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竹取物語

 

これまで「源氏物語」と「平家物語」の中で詠まれた和歌について紹介してきたが、ここでは「現存する最古の物語」とされている「竹取物語」の中で詠まれた和歌について紹介する。

 

「竹取物語」は平安時代前期(9世紀後半~10世紀前半)に成立したが、その作者や成立年については不明である(作者については、源順、源融、僧正遍昭、文屋康秀ら諸説あるが確証はない)。内容は、いわゆる「かぐや姫」の物語であり、(1)かぐや姫の生い立ち、(2)5人の貴公子の求婚、(3)帝の求婚、(4)かぐや姫の昇天、(5)富士の煙(エピローグ)から成る。

 

すなわち、竹取の翁が竹の中から小さい女の子を見つけて大切に養育していくうち、わずかの間に美しい女性に成長したのでかぐや姫と名付ける。姫のうわさを聞いて多くの男たちが求婚したが、中でも石作皇子、車持皇子、右大臣阿部御主人、大納言大伴御行、中納言石上麻呂の5人は熱心であった。そこで姫はこの5人の貴公子に対してそれぞれ、仏の御石の鉢、蓬莱の玉の枝、火鼠の裘、竜の首の珠、燕の子安貝を持ってくるように難題を課す。5人は姫の要求に応えようと苦心をするが、結局すべて失敗に終わる。最後に帝が姫を求めて勅使を遣わすが、姫はそのお召しにも応じず、養い親の翁や嫗の嘆きをあとに、不死の薬と手紙を残して、八月十五夜、天人に迎えられて月の世界へ昇天してしまう。その後、姫に去られ傷心の帝は、姫が形見に置いて行った不死の薬ももはや不要だとして、それを天に最も近い駿河国の山で燃やすよう命じる。たくさんの兵士が命を受けて登り薬を燃やしたので、その山を富士と名づけ、その煙は今も山頂に立ちのぼっていると伝えられる。

 

竹取物語の中で詠まれた和歌は計15首であり、石作皇子、車持皇子、右大臣阿部御主人、中納言石上麻呂そして帝とかぐや姫とのやり取りが14首、他に竹取の翁が詠んだのが1首である。以下に、それらの和歌を紹介する。

 

〇かぐや姫に「天竺にある仏の石の鉢を取って来て下さい」と言われた石作皇子が、3年後に大和国の山寺にあった鉢を錦の袋に入れ、作花の枝につけてかぐや姫に見せると、かぐや姫が怪しがり見た鉢の中にあった手紙に書かれていた石作皇子の詠んだ歌

 海山の みちにこゝろを つくしはて みいしの鉢の なみだながれき

〇それに対して、かぐや姫は鉢に蛍ほどの光も無かったのを見て偽物と見破り、鉢を石作皇子に突き返し詠んだ歌

 おく露の 光をだにも やどさまし をくら山にて なにもとめけむ

〇それに対して、突き返された鉢を門口に棄てた後、石作皇子が詠んでかぐや姫に贈った歌

 しら山に あへば光の うするかと はちを棄てゝも たのまるゝかな

 

〇かぐや姫に「の海にある蓬莱山の玉の枝を取って来て下さい」と言われた車持皇子が、職人に偽の玉の枝を造らせて、それを持参し翁に手渡してかぐや姫に見せるようにと依頼した時に、玉の枝に付けてあった手紙に書かれていた車持皇子の詠んだ歌

 いたづらに 身はなしつとも 玉の枝を 手折らでさらに 帰らざらまし

〇それに対して、翁は車持皇子にどのように手に入れたかの問いに車持皇子が苦労して手に入れたことを聞き、翁が感動し詠んだ歌

 呉竹の よゝのたけとり 野山にも さやはわびしき ふしをのみ見し

〇それを聞いて、車持皇子が長い間辛い思いをしたと翁に対して詠んだ歌

 わが袂 けふかわければ わびしさの ちくさのかずも 忘られぬべし

〇その後、翁の元へ職人たちが現われ、玉の枝が偽物であることがバレてしまい、かぐや姫が翁に玉の枝を車持皇子へ返すようにと詠んだ歌

 まことかと 聞きて見つれば ことの葉を 飾れる玉の 枝にぞありける

 

〇かぐや姫に「唐土にある火鼠の裘(皮衣)を取って来て下さい」と言われた右大臣阿部御主人が、唐や天竺などをあたり大金を出してようやく手に入れ、皮衣を箱に入れてかぐや姫のところを訪れた際に詠んだ歌

 かぎりなき おもひに焼けぬ かはごろも 袂かわきて 今日こそはきめ

〇阿部御主人が持参した皮衣をかぐや姫は本物かどうか疑い、翁と相談して本物かどうかを実際に燃やして試したところ、あえなく燃えたため偽物と判明し、阿部御主人が持参した箱に入れて返したかぐや姫の詠んだ歌

 なごりなく もゆと知りせば かは衣 おもひの外に おきて見ましを

 

〇かぐや姫に「の持っている子安貝を1つ取って来て下さい」と言われた中納言石上麻呂が、いろいろと策を練って子安貝を手に入れようとしたが、苦労の末に手にしたのは燕の糞で、しかもそのために衰弱し恥をかいたことを、かぐや姫が聞きお見舞いの手紙を書いて詠んだ歌

 年を経て 浪立ちよらぬ すみのえの まつかひなしと 聞くはまことか

〇それに応えて、石上麻呂が瀕死の状態で人に託してかぐや姫に詠んで届けた歌

 かひはかく ありけるものを わびはてゝ 死ぬる命を すくひやはせぬ

 

〇かぐや姫が美しいことを聞いて帝はお召しになろうと思いかぐや姫のところを訪れたが、この世の人ではないとのことで断られ、名残り惜しく帰る際に帝が詠んだ歌

 かへるさの みゆき物うく おもほえて そむきてとまる かぐや姫ゆゑ

〇それに応えてかぐや姫が詠んだ歌

 葎はふ 下にもとしは 経ぬる身の なにかはたまの うてなをもみむ

 

〇かぐや姫がいよいよ月へ昇天することとなり、それを聞いた帝が大勢の人々を派遣して引き留めようとするが、それでも昇天しなければならない気持ちを帝に伝えて詠んだかぐや姫の歌

 今はとて 天のはごろも きるをりぞ 君をあはれと おもひいでぬる

 

〇帝はかぐや姫が月へ昇天したことを知り、またかぐや姫からの手紙を読んで、側近から天に一番近い山が駿河の山(富士山)であることを聞いて悲しみに沈み詠んだ歌

 逢ふことも 涙にうかぶ わが身には 死なぬくすりも 何にかはせむ