安倍元首相の「怨霊」 | 俳句の里だより2

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自民党が消滅か?

 

先日(12月2日付)のブログで、ある大学教授が自民党の5つの派閥(安倍派の清和政策研究会、二階派の志帥会、岸田派の宏池政策研究会、麻生派の志公会、茂木派の平成研究会)が開いた政治資金パーティーの収入が政治資金収支報告書に記載されていなかったため、政治資金規正法に違反する(不記載・虚偽記入)と検察へ告発したこと、国会で野党がこれを厳しく追及したこと、さらには、最大派閥の清和政策研究会が巨額(2022年までの5年間で1億円以上)の裏金づくりを続けていた疑いが発覚し、東京地検特捜部が捜査を進めていることなどを書いた。

 

この安倍派の裏金づくり疑惑に関して、かつて同派の事務総長をしていた松野官房長官は、記者団や国会での野党の質問に対し、「この場は政府の立場としてお答えしている。個々の政治団体や私の政治活動については差し控える」とノーコメントを繰り返し、同じく事務総長をしていた西村経済産業相もまた「個々の政治団体の話なので答えを控えたい」と黙秘、現事務総長の高木国対委員長は国会から雲隠れして逃げまくった。

 

しかし、その後の新聞報道によれば、松野官房長官が直近5年間で派閥から1千万円を超える裏金のキックバックを受け、政治資金収支報告書に記載していない疑いがあるとことが分かった。国会で野党にこの点を追及されても、相変わらず「精査して適切に対応する」「答弁を控える」との答弁を、何と約6時間の間に合計27回に上ったというから呆れるばかりだ。定例の記者会見でも、同じ質問に対しこれを繰り返すばかりで、政府のスポークスマンの役割を全く果たさず、野党からは、「そんな方に官房長官を任せてはいけない。辞めるべきではないか」と追及されても、松野氏は「引き続き、所管する分野について責任を果たして参りたい」と述べ、自身の進退については明確に否定するコメントをした。

 

さらに、その後の新聞報道によれば、この裏金づくり疑惑は松野官房長官に留まらず、先に述べた高木国対委員長、西村経済産業相、さらには世耕参院幹事長、萩生田政調会長、そして塩谷元文部科学相の6人も行っていた疑いがあるとのことだ。これら6人のうち、塩谷氏は派閥の事実上トップの座長で、他の5氏は安倍派「5人衆」と称され、岸田政権を支える存在でもある。安倍派では、安倍元首相の死去後、座長と「5人衆」による集団指導体制が続いており、主要幹部に軒並み裏金疑惑が浮上したことになる。

 

前記したように、安倍派を含む自民5派閥に対する政治資金規正法違反(不記載、虚偽記載)容疑で刑事告発を受けている東京地検特捜部は、全国から応援検事を集め派閥の会計責任者らの事情聴取を進めている。臨時国会の会期末(13日)後に、裏金化が疑われる議員らへの聴取を本格化させるとみられるが、その主なターゲットは安倍派であることは間違いない。

 

岸田首相は疑惑が表面化した当初、各派閥に事実関係の精査を指示するのみにとどめていた。ところが複数の議員が派閥パーティー収入で巨額の還流を受けた疑いが浮上すると、世論の批判の矛先は派閥トップの首相にも向けられた。党幹部から「派閥会長は辞めた方がいい」と進言され、そのため突如岸田派会長の退任と派閥離脱を表明し、派閥ではなく党のトップとして「私自身が先頭に立って、政治の信頼回復に向けて努力をしたい」などと述べたが、派閥パーティーの自粛要請も含めて相も変わらず場当たり的な後手対応が目立ち、党内では首相への不満が噴出している。

 

いずれにしても、自民党及び岸田政権は、今大揺れに揺れており、崩壊寸前というか、沈没寸前というか、非常事態に陥っており、自民党議員の誰もが平常心ではいられない心境であろう。中でも、安倍派は安倍元首相の死去後座長と「5人衆」による集団指導体制が続いており、主要幹部に軒並み裏金疑惑が浮上したことにより、ほとんど壊滅状態である。また、彼らは岸田政権を支える存在であり、岸田政権もまた壊滅状態と言ってよい。松野官房長官や高木毅国対委員長の更迭も時間の問題であり、他の幹部もまたどうなるか分からない。岸田内閣も年内総辞職が在っても不思議でない。

 

それにしても、ここに来て何故突然この疑惑騒動の発端になった「政治資金パーティー券のキックバック」問題が浮上し、マスコミに報道され、世間に暴露されたのであろうか。こんなことは、以前から繰り返し行われてきたことであり、それまで何の問題にもならなかった。また、世間に暴露されるようなことも一切なく、すべては闇に葬られたままだった。それが、突然暴露され、大問題となり、東京地検特捜部が捜査するなどという「異常事態」になったのだろうか。このような「悪事」が何故バレてしまったのだろうか。

 

それは、これまでにも何度もブログに書いたことだが、昨年7月の安倍元首相の死去が最大の原因である。すなわち、安倍元首相が生存中であれば、その異常とも思える権力により、検察や警察など捜査機関、さらにはマスコミまでも完全に掌握し、「悪事」を行っても圧力を加えて封じ込めることが可能だった。それは、時に裁判所まで圧力を加えることもあったのである。しかし、安倍氏が死去して以降、検察や警察、さらにはマスコミもその抑圧から解放され、自由に捜査し、報道が可能となったのである。今回のある教授による政治資金規正法違反の告発も、マスコミの報道も、さらには東京地検特捜部の捜査もすべて可能となり、ようやく日の目を見たのである。

 

その主要なターゲットが安倍派というのも何とも皮肉であるが、検察や警察、マスコミにとっては「長年の恨みを晴らした」との心境になったのではないだろうか。その一方で、自民党や安倍派の議員、さらには岸田政権にとっては、安倍氏の死去によりこのような「悪事」がバレてしまったので、悔やんでも悔やみきれないというか、何とも歯がゆい事だったに違いない。それもこれも、昔の言葉で言えば「安倍氏の怨霊」あるいは「安倍氏の呪い」かもしれない。