七種(七草)
正月七日の粥に七種の菜(せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ)を入れる風習を指す。
七草は 唐土の鳥の 摺餌哉 (宗祇)
七草も けふまた六ツの 花野哉 (昌休)
よきてつめ 秋の七くさは 雪の下 (紹巴)
なべて世に 叩くはあすの くひな哉 (宗鑑)
雪の下に ある七草や 七ふしぎ (重頼)
七草に もらひ笑ひや あさつ腹 (来山)
四方に打つ 薺もしどろ もどろかな (芭蕉)
七種や 跡にうかるる 朝がらす (其角)
七草や 粧ひしかけて 切刻み (野坡)
七種や 唱歌ふくめる 口のうち (北枝)
七草を 三べんうつた 手首哉 (嵐雪)
なな草や 次手に 扣く 鳥の骨 (桃隣)
七種も 過ぎてあか菜の 寒さかな (浪化)
七種や あまれどたらぬ ものもあり (千代女)
七くさや 袴の紐の 片むすび (蕪村)
七草も 昼になりけり 上手下手 (太祇)
七草や あらしの底の 人の声 (麦水)
七草に 鼠が恋も わかれけり (几董)
七草や なくてぞ数の なつかしき (青蘿)
七草に 不二の山彦 うたふなり (大江丸)
七草や 夜着から貌を 出しながら (一茶)
七草の 屑にえらるる ははこかな (梅室)
七草は 七ツ異なる 風情かな (正岡子規)
七草に 更に嫁菜を 加へけり (高浜虚子)
七草の 粥のあをみや いさぎよき (松瀬青々)
天暗く 七種粥の 煮ゆるなり (前田普羅)
若菜、若菜摘
正月七日の「七種」の時に粥に入れる七つの菜の総称を「若菜」といい、若菜を前日の六日に摘むことを「若菜摘」と呼ぶ。
袖またで 雪につまるる 若菜かな (心敬)
若菜つむ 野も雪ならし 嶺の松 (兼載)
鶯の ことのはをつむ 若菜哉 (宗牧)
けふにあひて 松引若菜 摘野哉 (宗長)
つみはやせ ふりにし宿の 初若菜 (宗碩)
家々に つみても余る 若菜哉 (紹巴)
こもよみこ 餅煮んとつむ 若菜かな (貞室)
青し青し 若菜は青し 雪の原 (来山)
雪の戸や 若菜ばかりの 道一つ (言水)
蒟蒻に けふは売り勝つ 若菜かな (芭蕉)
老の身に 青みくはゆる 若菜かな (去来)
傘持は つくばひ馴れし 菜摘かな (其角)
若菜つむ 跡は木を割る 畑かな (越人)
精出して 摘むとも見えぬ 若菜哉 (野水)
つむすてて 蹈付がたきく 若菜哉 (路通)
若菜摘む 手や袖縁の 紅の色 (支考)
若菜つむ ぬぎかけ袖や 雪礫 (北枝)
衣手や 垣根の若菜 盆に摘む (杉風)
摘んで来た ままで若菜は 塵ばかり (園女)
山彦は よその事なり わかな摘 (千代女)
鉢の子に 粥たく庵も 若菜かな (太祇)
老武者と 大根あなどる 若菜かな (蕪村)
若菜つみ 野になれそむる 袂かな (樗良)
見めぐるも 七野やしろや わかなつみ (麦水)
つみつみて 枯野を戻る 若菜かな (蓼太)
わかなつみ わかなつみつみ 誰やおもふ (一茶)
古鍋の 中に煮え立つ 若菜哉 (尾崎紅葉)
嵯峨へ行き 御室へ戻り 若菜かな (正岡子規)
有るものを 摘み来よ乙女 若菜の日 (高浜虚子)
爪紅の 雪を染めたる 若菜かな (泉鏡花)
俎に 到りし雪の 若菜かな (松根東洋城)
若菜摘む 人を恋ほしく 待つ間かな (中村汀女)
日出づる 国に生れて 若菜粥 (長谷川櫂)
春山の 咲きのををりに 春菜つむ 妹が白紐 見らくしよしも (尾張連)
明日よりは 春菜採まむと 標めし野に 昨日も今日も 雪はふりつつ (山部赤人)
難波べに 人の行ければ 後れゐて 春菜採む児を 見るが悲しさ (丹比屋主真人)
君がため 春の野に出でて 若菜摘む わが衣手に 雪は降りつつ (光孝天皇)
春日野の 若菜摘みにや 白妙の 袖ふりはへて 人のゆくらむ (紀貫之)
春日野の 草はみどりに なりにけり 若菜つまむと たれかしめけむ (壬生忠見)
若菜つむ 袖とぞみゆる 春日野の 飛火の野べの 雪のむらぎえ (前参議教長)
往きて見ぬ 人も忍べと 春の野の かたみに摘める 若菜なりけり (紀貫之)
沢におふる 若菜ならねど いたづらに 年をつむにも 袖はぬれけり (藤原俊成)
国栖等が 春菜採むらむ 司馬の野の しましま君を 思ふこのごろ (詠み人知らず) 以下同じ
川上に 洗ふ若菜の 流れ来て 妹があたりの 瀬にこそ寄らめ
あづさゆみ おして春雨 今日降りぬ 明日さへ降らば 若菜摘みてむ
春日野の 飛火の野守 出でて見よ 今いくかありて 若菜摘みてむ
み山には 松の雪だに 消えなくに 都は野辺の 若菜摘みけり