短歌(和歌)の歴史概観(14) | 俳句の里だより2

俳句の里だより2

俳句の里に生まれ育った正岡子規と水野広徳を愛する私のひとりごと

平安時代(中期女流歌人)

 

「古今和歌集(古今集)」(905年編纂)以降、鎌倉初期の「新古今和歌集(新古今集)」(1205年編纂)までに「後拾遺集」や「千載集」など6つの勅撰集が編纂されたが、この間の主な歌人には、源経信、源俊頼、藤原基俊、藤原顕輔、藤原俊成、藤原清輔、崇徳院、平忠度、能因、西行ら、そして、和泉式部、紫式部、赤染衛門、清少納言、伊勢大輔、小式部内侍(和泉式部の娘)、相模、大弐三位(紫式部の娘)らの女流歌人がいる。

 

なお、藤原俊成の息子の藤原定家は「新古今集」の撰者の一人であるが、後鳥羽院や式子内親王、二条院讃岐、慈円、寂連、源実朝、建礼門院右京太夫などとともに、ここでは分類上は「鎌倉時代」として取り上げることとした。以下では、上記平安中期を代表する女流歌人の歌をいくつか紹介することとした。


 

 われがなほ 折らまほしきは 白雲の 八重にかさなる 山吹の花 (和泉式部)

 

 桜色に そめし衣を ぬぎかへて 山ほととぎす 今日よりぞ待つ

 

 野辺みれば 尾花がもとの 思ひ草 かれゆく冬に なりぞしにける

 

 さびしさに 煙をだにも 絶たじとて 柴折りくぶる 冬の山里

 

 黒髪の みだれもしらず うちふせば まづかきやりし 人ぞ恋しき

 

 人の身も 恋にはかへつ 夏虫の あらはに燃ゆと 見えぬばかりぞ

 

 枕だに 知らねば言はじ 見しままに 君語るなよ 春の夜の夢

 

 白露も 夢もこの世も まぼろしも たとへて言へば 久しかりけり

 

 津の国の こやとも人を 言ふべきに ひまこそなけれ 葦の八重葺き

 

 物おもへば 沢の蛍も 我が身より あくがれいづる 魂かとぞみる

 

 あらざらむ この世のほかの 思ひ出でに 今ひとたびの 逢ふこともがな

 

 今はただ そよそのことと 思ひ出でて 忘るばかりの 憂きこともがな

 

 夢にだに 見で明かしつる 暁の 恋こそ恋の かぎりなりけれ

 

 などて君 むなしき空に 消えにけむ あは雪だにも ふればふるよに

 

 とどめおきて 誰をあはれと 思ふらむ 子はまさるらむ 子はまさりけり

 

 この身こそ 子のかはりには 恋しけれ 親恋しくは 親を見てまし

 

 しのぶべき 人もなき身は ある時に あはれあはれと 言ひやおかまし

 

 暗きより 暗き道にぞ 入りぬべき はるかに照らせ 山の端の月

 

 
 ほととぎす 声待つほどは 片岡の 杜のしづくに 立ちや濡れまし (紫式部)

 

 おほかたの 秋のあはれを 思ひやれ 月に心は あくがれぬとも

 

 めぐりあひて 見しやそれとも わかぬまに 雲隠れにし 夜半の月かげ

 

 北へゆく 雁のつばさに ことづてよ 雲のうはがき かき絶えずして

 

 めづらしき 光さしそふ さかづきは もちながらこそ 千世もめぐらめ

 

 暮れぬまの 身をば思はで 人の世の あはれを知るぞ かつははかなき

 

 心あてに それかとぞ見る 白露の 光そへたる 夕顔の花 <源氏物語より>

 

 見てもまた 逢ふ夜まれなる 夢のうちに やがてまぎるる 我が身ともがな

 

 憂き身世に やがて消えなば たづねても 草の原をば とはじとや思ふ

 

 恋ひわびて 泣く音にまがふ 浦波は 思ふかたより 風や吹くらむ

 

 いにしへの 秋の夕べの 恋しきに 今はと見えし あけぐれの夢

 

 霜さゆる 汀の千鳥 うちわびて なく音かなしき 朝ぼらけかな

 

 ありと見て 手にはとられず 見ればまた ゆくへもしらず 消えしかげろふ


 

 紫の 袖をつらねて きたるかな 春立つことは これぞうれしき (赤染衛門)

 

 踏めば惜し 踏まではゆかむ 方もなし 心づくしの 山桜かな

 

 五月雨の 空だにすめる 月影に 涙の雨は はるるまもなし

 

 やすらはで 寝なましものを さ夜更けて かたぶくまでの 月を見しかな

 

 いかに寝て 見えしなるらむ うたたねの 夢より後は 物をこそ思へ

 

 思ふこと なくてぞ見まし 与謝の海の 天の橋だて 都なりせば

 

 うつろはで しばし信太の 森を見よ かへりもぞする 葛のうら風

 

 我ばかり 長柄の橋は くちにけり なにはのことも ふるる悲しな


 

 夜をこめて 鳥のそらねに はかるとも よにあふ坂の 関はゆるさじ (清少納言)

 

 うは氷 あはにむすべる ひもなれば かざす日影に ゆるぶばかりを

 

 雲のうへも 暮らしかねける 春の日を ところがらとも ながめつるかな

 

 もとめても かかる蓮の 露をおきて 憂き世にまたは かへるものかは

 

 これを見よ うへはつれなき 夏草も 下はかくこそ 思ひみだるれ


 

 いにしへの 奈良の都の 八重桜 けふここのへに にほひぬるかな (伊勢大輔)

 

 聞きつとも 聞かずともなく 時鳥 心まどはす さ夜のひと声

 

 けふも今日 あやめもあやめ 変はらぬに 宿こそありし 宿とおぼえね

 

 さ夜ふかく 旅の空にて 啼く雁は おのが羽風や 夜寒なるらむ

 

 目もかれず 見つつ暮らさむ 白菊の 花よりのちの 花しなければ

 

 霧まよふ 秋の空には ことごとに たつとも見えぬ 恋のけぶりを

 

 うれしさは 忘れやはする 忍ぶ草 しのぶるものを 秋の夕暮

 

 
 おほえ山 いく野の道の とほければ まだふみもみず 天の橋立 (小式部内侍)

 

 春のこぬ ところはなきを 白川の わたりにのみや 花はさくらむ

 

 死ぬばかり 嘆きにこそは 嘆きしか いきてとふべき 身にしあらねば

 

 見てもなほ おぼつかなきは 春の夜の 霞をわけて いづる月かげ


 

 恨みわび ほさぬ袖だに あるものを 恋に朽ちなむ 名こそ惜しけれ (相模)

 

 見わたせば 波のしがらみ かけてけり 卯の花さける 玉川の里          

 

 聞かでただ 寝なましものを ほととぎす 中々なりや 夜はの一こゑ

 

 五月雨の 空なつかしく 匂ふかな 花橘に 風や吹くらむ

 

 さみだれは 美豆の御牧の まこも草 かりほすひまも あらじとぞ思ふ

 

 下もみぢ 一葉づつ散る 木のしたに 秋とおぼゆる 蝉の声かな

 

 手もたゆく ならす扇の おきどころ 忘るばかりに 秋風ぞ吹く

 

 暁の 露は涙も とどまらで うらむる風の 声ぞのこれる

 

 神無月 しぐるる頃も いかなれや 空にすぎにし 秋の宮人

 

 いつとなく 心そらなる 我が恋や 富士の高嶺に かかる白雲

 

 夕暮は 待たれしものを 今はただ ゆくらむかたを 思ひこそやれ

 

 稲妻は てらさぬ宵も なかりけり いづらほのかに 見えしかげろふ


 

 有馬山 ゐなの笹原 風ふけば いでそよ人を 忘れやはする (大弐三位)

 

 春ごとに 心をしむる 花の枝に 誰がなほざりの 袖かふれつる

 

 はるかなる もろこしまでも ゆくものは 秋の寝覚の 心なりけり

 

 わかれけむ なごりの露も かわかぬに 置きやそふらむ 秋の夕露

 

 梅の花 なににほふらむ 見る人の 色をも香をも 忘れぬる世に