「送り仮名の問題点」 | はぐれ国語教師純情派~その華麗なる毎日~

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国語教師は生徒に国語を教えるだけではいけない。教えた国語が通用する社会づくりをしなければ無責任。そう考える「はぐれ国語教師純情派」の私は、今日もおかしな日本語に立ち向かうのだ。

 送り仮名というのは、単語を漢字で書く場合に漢字に添えるひらがなのことですね。例えば、「明るい」の「るい」、「表す」の「す」、「現れる」の「れる」が送り仮名です。送り仮名をつけることで、漢字の読み方を明らかにして誤読を防いだり、単語を読みやすくしたりできますね。

 送り仮名をつける際の覚え方として、生徒には、

 

「原則として語幹を漢字で、活用語尾をひらがなで表記するんだよ」

 

と指導します。曖昧さのない指導と理解との合致が理想です。この送り仮名のつけ方は、内閣告示「送り仮名の付け方」で定められてあります。

 ところが、パソコンやスマホで入力して文字変換を行うと、複数の送り仮名が出てきます。例えば、「もうしこみ」と入力すると、「申し込み」も「申込み」も「申込」も表示されます。困ります。生徒に教えたことと違います。どうしてこのようなことが起きるのでしょうか? 実は、こんなことがその背景にあります。

 先ほど触れた内閣告示では、「送り仮名の付け方」として次の4つにルールが分類されてあります。

  1.本則  送り仮名をつける際の原則。

  2.例外  本則から外れるが、別の語と区別する目的で認められるルール。

  3.許容  本則から外れるが、送り仮名を追加したり省略したりするルール。

  4.寛容  本則から外れるが、一般に広く普及しているため送り仮名を省略することが認められているルール。

 私たちが、小学校、中学校で学習してきた正しい送り仮名の付け方が「本則」です。本当はこれで統一できれば一番いいのかもしれません。ところが、何事にも「例外」は存在しますから多少は目をつぶるとしても、社会では「許容」と「慣用」について、あまりにも緩くされ過ぎてしまっているやに思われます。

 「許容」は、送り仮名を追加したり省略したりすることができるというルールです。新聞などの一般的な出版物では使用を認められていません。「許容」には送り仮名を追加する場合と、省略する場合とがあります。例えば、「おこなう」は「本則」では「行う」と記載しますが、「許容」のルールでは「行なう」と記載することができます。その他、「表わす」、「現わす」、「著わす」、「断わる」、「賜わる」というように、活用語尾の前から送ることで、送り仮名を増やして記載することができます。また逆に、「浮ぶ」、「生る」、「曇」、「代り」、「申込む」、「打合せる」といったように、送り仮名を省略して記載することもできます。

 「慣用」とは、すでに一般に広く普及してしまっているため、新聞でも公用文でも認められているルールです。例えば「取締役」、「合言葉」「消印」などの特定の領域の複合名詞は、「本則」ではなく「慣用」に従って記載されます。「書留」、「組合」、「両替」などもそうですね。

 ここでみなさん、確認を一つ。小・中学生の国語のテスト、高校入試、大学入試などは、あくまでも「本則」に則って採点を行われます。その点、子どもたちが学校と社会の実際とに乖離を感じてしまうことになります。学校教育においても社会教育においても、もちろん家庭教育においてもそのケアは非常に不足しているという問題が存在しているのです。困ります。

 お店で、

 

「お持帰り用ピザ、ご用意できます」

 

という張り紙に違和感を覚える人は、正しい言語感覚を持っている人だと言っていいと思います。日本語は、まだまだ成長過程にあると言ってもよいのかもしれません。