こんなことからお話に入っていきたいと思います。
ある町内会で、夏休みに日帰り小旅行に行くことになりました。実行委員会が組織され、経費について次のように提示されました。
「4,000円以上5,000円以内の経費で行程を検討したいと思います。あらかじめお伝えいたしますので、集金日までご準備をお願いいたします。
さて、この提示をした場合、実際の集金額として妥当なのは、次のうちのどれでしょうか?
ア 3,200円 イ 4,000円 ウ 4,500円 エ 5,000円 オ 5,500円 カ 6,000円
数学の問題ではなく、言葉の用い方の問題ですから、そんなに厳密なお話をするつもりはありませんが、一緒に考えてみましょう。
集金額が、アの3,200円になったなら、きっとたくさんの人が喜ぶことでしょう。提示にされた金額よりも安いので、余ったお金を別に使えるからです。イの4,000円、ウの4,500円、エの5,000円だった場合には、町内の皆さんは当たり前の表情でお金をお支払いすることでしょう。なぜなら、予め提示された範囲内の金額だからです。
でも、オの5,500円だったらどうでしょう? 不満や不服を顔に出し、中にはクレームをつける人もいるかもしれません。さらに、カの6,000円なら、怒って参加を取り消す人が出てくるかもしれません。
夏休み、生徒達には「夏休みの課題」として読書感想文が課せられます。各主催者はその要項に、「原稿用紙語5枚(2,000字程度)」と提示しています。中学生に対し、日本社会は2,000字のまとまった文章が書けることを求めているということなのでしょう。
国語科では、その要請を受けて、「4枚以上5枚以内」という表現で作品提出を求めました。つまり、「1,600字以上2,000字以内」ですよね? 3年生160名ほどの生徒たちの提出状況は以下の通りです。
1.未提出 37.5パーセント
2.1,600字未満 36.0パーセント
3.1,600字以上 27.2パーセント
驚いてしまいますね。ちゃんと提出できた生徒は3割に到達していません。ここで問題にしたいのは、「2」の1,600字未満の読書感想文を提出した生徒たちのことです。一応は出したのです。でも、彼らの解釈は、「4枚以上って、4枚目に入ればいいよね」とか、「3枚と1字からが4枚だもん」のように、自分に都合の良いように解釈して提出したか、本当に「原稿用紙5枚程度(2,000字程度)」が理解できなかった人たちです。
もし親が、「お小遣いを月4千円(原稿用紙4枚)以上あげるよ」と約束したのに、子どもに3,500円(原稿用紙3枚半)しかくれなかったら、彼らは
「約束違反だよ!」
とは思わないのでしょうか?
原稿用紙「4枚以上5枚以内」の表現をたった27%しか理解できない子たちの読書感想文を読む真夏の全国の国語教師たち。限りなく不憫に思えてなりません。