日銀は本日、7月20,21日に開催した「決定会合」の議事要旨を公開しました。ここに示された日銀の認識には、少なからず疑義があります。
まず為替認識です。黒田総裁は円安について、日米の金利差が必ずしも円安の原因とは言い切れない。金利を引き上げている英国や韓国の通貨も下落している。と言い、基本はドル高で、日銀の金融緩和が円安の背景ではない、と言い張っています。
これに対して、本日公開の議事要旨では、「円の対ドル相場は、日米間の金融政策の方向性の違いや、輸入企業のドル買いの動きなどを背景に円安方向の動きとなっている」と明記。日米金融政策の差が円安の要因と認めています。
物価について、生鮮食品とエネルギーを除いた「コアコア」は需給ギャップの改善でプラス幅を拡大してゆくが、予測期間内に2%に達することは見込めない、と述べています。この発言の裏には、エネルギーや生鮮食品の上昇による一時的なインフレ、と言いたい思いが伺えますが、コアコアの直近3か月の上昇率は年率3.6%に高まっています。コアコアの前年比は、予想期間内はおろか、今年度中に2%を超える可能性があります。
さらに問題視したいのは、日銀の姿勢です。議事要旨の終盤で、「日銀が目指すのは、賃金と物価の好循環であり、それが暮らし向きの改善につながる。大規模な金融緩和は雇用の増加、時間当たりの実質賃金の上昇、非賃金での処遇の改善を実現して1人当たり成長率を高めてきた」とあります。
所得から支出への前向きな循環なら良いとしても、賃金物価の好循環は危険です。所得のパイが十分でない中で賃金を上げると、「賃金と物価のスパイラル的上昇」を引き起こし、インフレの高進、長期化と国民生活の圧迫、格差の拡大など、悪影響が大きくなります。だからこそFRBもECBもこのスパイラル的上昇を断ち切るために積極利上げをしています。石油危機の際の日本もそうでした。パイが十分でないときに賃金を上げれば、企業はコスト高となった分を価格転嫁せざるを得ず、それで価格が上がればまた賃上げしないと実質賃金が減ります。これは「悪循環」です。
日銀が「賃金が上げられるようになるまで金融支援する」ことは、悪いインフレで国民生活を圧迫するリスクが高く、危険です。賃金、年金が増えないなら、物価上昇を抑えるのが、国民生活を守る近道のはずです。2%超のインフレでも負担です。物価目標を掲げたなら正しく運用してほしいものです。