黒田総裁会見に思う | 経済あらかると

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 日銀決定会合後に黒田総裁が定例会見を開きました。その注目点と、不満点を示したいと思います。

 

 1、物価上昇の可能性を認めた。

   これまで4月以降、通信費値下げの影響が剥落すれば2%近いインフレになると指摘されても、インフレにはならないといい続けてきました。しかし、今回の会見では2%近くになる可能性を認めました。ただ、これは国際商品市況の上昇によるコストプッシュによるもので、望ましいものでなく、しかも長続きしないので、金融政策とは無関係との立場を示しました。

 

  2、.国際商品市況を押し上げたのは誰か。

  総裁は商品市況の上昇をウクライナのせいにし、これによるコストプッシュ・インフレは金融政策と無縁との立場ですが、そもそも商品市況はウクライナ前から上昇していて、これには主要中銀の大規模緩和による大規模な流動性追加が大きく影響しています。特に、コロナ後には主要中銀で7兆ドルを超える流動性を供給、行き場を失ったマネーが原油や商品市況に回り、相場を押し上げた点を無視しています。

 FRBはこのインフレに耐えられず、引き締めに転換しましたが、日銀が緩和を続ければ、FRBの努力を打ち消し、インフレの根幹を潰せなくなります。国際協調の視点も欠如しています。

 

 3、円安の評価に難あり

 総裁は円安について、引き続き「全体としてみればプラス」の立場を変えていません。輸入物価も上がるが輸出物価も上がるといい、海外で得た収益が円安で大きくなる点を指摘しました。しかし、輸出物価の上昇は限定的で、交易条件は悪化しています。また円安が分配をゆがめる点に頭が及んでいません。円安のプラスは輸出企業に集まり、そのコストは消費者が負担します。つまり、円安は企業と個人の所得分配をゆがめます。その分、稼いだ企業が賃上げで個人に還元すればよいのですが、利益を内部留保にため込んで、人件費を抑えています。

 従って円安は個人の所得、購買力を奪い、生活水準を圧迫し、これが企業の設備投資も抑制させ、景気全体を弱める面があります。円安の分配面に与える影響を日銀は考える必要があります。