こんにちは、園庭研究所の石田です。
前記事に続き、危険に対する概念規定についてです。→ 前記事「危険に対する概念規定:リスク/ハザード」
野田舞さん他の論文「固定遊具の遊びの価値と安全性を高める方法についての実証的研究ーハザードとリスクの概念を中心にー」(2018)からの内容となります。
野田さんは、園庭での子どもの様子の観察調査、危険についての国際規格の定義、日本の遊具の安全基準にみられる「子どもが危険を認知できるか否か」という軸を元に、遊具にまつわる危険性について以下の図ような概念構成を試みられています。(図は上記論文より転載。)
この概念構成図のA〜Dの4つの象限について、野田さんは次のように説明されています。
第1象限(A):
遊具の本質として内在するハザードのうち、子どもが認知可能な危険性。遊具の遊びのワクワクドキドキや、克服による達成感など、遊びの価値を生み出す遊具の構造そのもの。
この領域で生じるリスクについては、子どもの挑戦意欲、運動能力を発達させるための必要悪として、ある程度、保育者も保護者も許容しなげればならない。
しかしながら、それが重篤な怪我にならないように、保育者の援助や落下面のクッション化など、必要な対策は取るべきである。
このハザードに対する対応策:遊びを通して子どもの危険回避能力を高めていくこと。
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第2象限(B):
遊具の本質として内在するハザードのうち、子どもが認知不可能な危険性であり、遊具に適さない発達段階の子どもや、障害のある子どもが遊具に接することいよって生み出される危険性。
子どもの発達や認知のレベルにより、このハザードが生み出すリスクは変化する。
このハザードに対する対応策:適した発達段階に到達するまで、あるいは安全に遊べるだけの理解力を獲得するまで成長を待つ。
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第3限(C):
遊具に本来あってはならない取り除くべきハザードのうち、子どもが認知するのが難しい危険性。
多くは物的ハザードであり、思わぬ事故につながる。このハザードがあると、リスクの頻度と重篤度は高くなる傾向がある。
このハザードに対する対応策:保育者の日常的な安全点検や専門家(業者)の定期検査により発見し、徹底的に排除し、改善すること。
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第4限(D):
遊具に本来あってはならない取り除くべきハザードのうち、子どもが認知できるように働きかけて行くことのできる危険性。
多くは人的ハザードであり、可動式遊具に近づいたり、誤った遊び方をしたりすることにより生じる。
遊びに適した発達段階に達してはいても、視野が狭かったり、注意力散漫で保育者の説明をよく聞いていなかったりする子どもにリスクをもたらす。
このハザードに対する対応策:遊び始める前の十分な指導、間違った行動が見られた時の遊びの制止と指導。
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さらに、このように分類することによって以下2点の価値が生まれると、野田さんは述べられています。
1)「事故が起きたから撤去」「危なそうだから使用禁止」という形で子どもたちの好きな魅力的な遊具が減って行く、という現実を回避することができる。
「危なそう」なのはどの種類のハザードなのか、「事故」はどのハザードが生み出すリスクから生じたのかを分析できれば、適切な対応を取ることができ、保護者や世間に対して説明責任を果たすことができる。
2)保育者に遊具の安全性を点検する観点を提供する。
ベテラン保育者が暗黙のうちに行ってきた点検の観点を、経験の浅い保育者にも明示的に伝えることができ、保育者の成長を促すことになる。
次回は、野田さんのご研究の続きで、保育施設でのリスク低減と保育者の専門性向上について、ご紹介したいと思います。^^
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【園庭や幼児と自然のについての著書】
『園庭を豊かな育ちの場に:質向上のためのヒントと事例』
園庭園庭全国調査に基づいて、園庭での保育・教育の質をより高めるための視点や工夫をご紹介しています。面積が小さな園や制約がある園での工夫や、地域活用の工夫もご覧いただけます。
* 2019こども環境学会賞【論文・著作賞】を頂きました。
『森と自然を活用した保育・幼児教育ガイドブック』
石田は以下を担当させていただきました。→第1章5「幼稚園施設整備指針と園庭調査を踏まえた屋外環境のあり方と自然」東京大学Cedep園庭調査研究グループ/第1章8「幼稚園教育要領等の5領域に合わせた先行研究」北澤明子, 木戸啓絵, 山口美和, 石田佳織
『保育内容 環境 第3版』
石田は第6章4節「自然環境と持続可能な社会」を担当させていただきました。