こんにちは、園庭研究所の石田です。
前記事に続き、園庭や地域環境など戸外での「様々な環境に汎用可能な安全配慮の視点」とは、どのようなものがあるのでしょうか?→ 前記事「園庭や戸外環境での危険とガイドライン」
今日はリスク/ハザードの概念定義について、野田舞さん他のご研究を紹介したいと思います。
野田舞 他(2018).「固定遊具の遊びの価値と安全性を高める方法についての実証的研究ーハザードとリスクの概念を中心にー」
危険に対しては「リスク」と「ハザード」という概念で把握することが一般的ですが、野田さんはリスク/ハザードの概念についてまず整理されています。
●(以下は論文に掲載されている内容です)
厚生労働省(2006)「危険性または有害性等の調査等に関する指針・同解説」では、リスク/ハザードは以下のように定義されています。
ハザード=「危険性又は有害性」
リスク=「危険性又は有害性によって生ずるおそれのある負傷又は疾病の重篤度および発生する可能性の度合」
そして、遊具の安全基準については、国内では以下があります。
1)国土交通省「都市公園における遊具の安全確保に関する指針」(2014)https://www.mlit.go.jp/common/000022126.pdf
2)日本公園施設業協会「遊具の安全に関する基準」(2014)https://www.jpfa.or.jp/activity/kijyun/
この、国土交通省「都市公園における遊具の安全確保に関する指針」は…。
基本的な考え方として、「子どもは遊びを通じて冒険や挑戦をし、心身の能力を高めていくものであり、遊具の安全確保に当たっては、こうした遊びの価値を尊重して、リスクを適切に管理するとともに、ハザードの除去に努めること」と示しています。
そして、リスク/ハザードについては以下のように定義しています。
リスク=「遊びの楽しみの要素で冒険や挑戦の対象」「子どもが危険を予測し、どのように対処すれば良いか判断可能な危険性」
ハザード=「遊びの価値とは関係のないところで事故を発生させるおそれのある危険性」「子どもが予測できず、どのように対処すれば良いか判断不可能な危険性」
さらに、リスクとハザードは「物的な要因」と「人的な要因」に分けることができると述べています。
○
こうした日本での危険に対する考え方や基準について、野田さんは以下のように指摘されています。
リスク/ハザードについては、遊具に関して国土交通省や日本公園施設業協会が示すリスク/ハザードの定義は、厚生労働省が示す本来のリスク/ハザードの概念とは異なっている。
そして、国際規格で定義されているリスク/ハザードの意味と、日本での遊具に関する安全基準とを比較研究した松野敬子さんの研究を取り上げ、日本での遊具の安全基準が本来のリスク/ハザードの概念規定と異なる背景について説明されています。
(松野敬子(2012). 「遊具の安全基準におけるリスクとハザードの定義に関する一考察」)
それは、日本に安全基準が、危険に対する欧州と米国両方の考え方を折衷する形で進んだため、とのことです。
・欧州の考え方:遊びの価値を重視し、子どもの成長の糧となるリスクをいかに残すか。
・米国の考え方:重篤な事故を減らすためにハザードを特定し適切な対処を行なって行くべき。
これらを折衷する形で進んだ結果、日本の遊具の安全基準では、「子ども自ら予測可能な危険=リスク」「子どもが予測できない危険=ハザード」という独特の概念定義となった、とのことです。
上の図は、松野敬子(2012)より。赤字は論文中で松野さんが解説されている内容です。
○
こうした日本におけてリスク/ハザードの概念規定の現状に対して、野田さんは、実際の保育場面における園児と保育者の遊具との関わりを観察調査され、リスクとハザードをどう定義すれば、怪我などの危険を減らすための助けとなるかを検討されています。
この野田さんのご研究結果については、次回書きたいと思います。^^
お問い合わせ: 電話:080-2381-8611 / メールを送る
園庭研究所まとめページ: 研修・ワークショップ / 園庭 好事例 / 園庭の研究紹介 / 園庭づくり
投稿・交流サイト→ Facebookグループ「園庭・地域環境での保育 交流グループ」
【園庭や幼児と自然のについての著書】
『園庭を豊かな育ちの場に:質向上のためのヒントと事例』
園庭園庭全国調査に基づいて、園庭での保育・教育の質をより高めるための視点や工夫をご紹介しています。面積が小さな園や制約がある園での工夫や、地域活用の工夫もご覧いただけます。
* 2019こども環境学会賞【論文・著作賞】を頂きました。
『森と自然を活用した保育・幼児教育ガイドブック』
石田は以下を担当させていただきました。→第1章5「幼稚園施設整備指針と園庭調査を踏まえた屋外環境のあり方と自然」東京大学Cedep園庭調査研究グループ/第1章8「幼稚園教育要領等の5領域に合わせた先行研究」北澤明子, 木戸啓絵, 山口美和, 石田佳織
『保育内容 環境 第3版』
石田は第6章4節「自然環境と持続可能な社会」を担当させていただきました。