こんにちは、園庭研究所の石田です。
保育者が危険を感じている場所や物と、実際に起きた危険事例とでは、ズレが生じている可能性があります。
ここ数記事で、子どもの危険対応力や園庭や戸外環境での安全管理について書いて来ました。→ 園庭や戸外環境での危険とガイドライン、日本と国際規格、4つの分類から危険を捉える、保育者の専門性向上とリスク低減
そのつながりで、今回は横田典子さんのご研究「「保育現場の危険事例と保育者の意識に関する考察ー「ヒヤリ、ハット」事例のデータベース化と安全チェックリストの作成に向けてー」(2019)をご紹介したいと思います。
横田さんは、以下2点について、愛知県内のある市内の保育園、こども園38園の職員計480名にアンケート調査をされました。
1)昨年度に起きた危険事例
2)園内で危険を感じる場所や物(戸外、室内別々に回答)
その結果、以下のことが明らかとなりました。
・「ヒヤリハット」事例としては、戸外では406件、室内386件が得られた。
・戸外では、「固定遊具」が191件と圧倒的に多く、場所別で多かったのは「テラス・階段」の32件だった。
・固定遊具の内訳では、滑り台、ブランコ、鉄棒の順で多かった。
ただし、ブランコは軽微な事故よりも、「近く・スペースに入る」「横切る」など「ヒヤリ、ハット」に類する回答が半数以上を占めた。
・その他、「ボール」「三輪車」も多く、「前を見ないで走る」「走っている子同士でぶつかる」なども12件づつあった。
さらに、1)危険事例と、2)園内で危険を感じる場所や物、で回答されたワード数を比較したところ…。
・‘事例’で最も多かったのが「滑り台」で、次いで「ブランコ」と遊具に関する数が多かった。
・‘保育者が危険と感じている場所や物’については、「テラス・階段」が最も多く、次いで「木」が多かった。
下表は、横田さん論文より。
こうした結果を受けて、横田さんは次のように指摘されています。
・実際に起こった事例と保育者の危険意識を照らし合わせると、「テラス・階段」や「コンクリート・アスファルト」「柵・門・フェンス」など設備環境に関わるものは、保育者の危険意識が高いものの、実際の事例に挙がってくる数としては遊具より少ない。
・「滑り台」「ブランコ」などの遊具は、危険を感じるものとして挙がってきにくいにも関わらず、事例では挙がってきやすい傾向にあり、危険な場所や物として挙がってきにくい。
・保育者の危険意識では、2番目に多かった「木」についても事例では少なく、実際の事例に繋がる可能性は低い。
・ブランコはヒヤリとする場面は多いものの、事故につながる可能性は滑り台より低い。
(『学校の管理下の災害 平成30年度版』(日本スポーツ振興センター)では、幼稚園・保育所・幼保連携型認定こども園等の負傷・質病の体育用具・遊具別件数は、1位が滑り台、2位が総合遊具、3位が鉄棒となっている。)
そして…
・(室内外共に)遊具など子どもが遊びに用いる物は保育者の危険意識に挙がりにくいため、具体的な安全チェックリストには、適切な援助を行うための視点を充実させることが重要である。
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また、回答内容の傾向分析からは、以下2点が示されています。
・子どもの年齢や発達段階、園の設備環境、保育者の経験など、様々な要因によって危険になりうる場所や物が異なる。
・保育者によってリスクとハザードの捉え方が様々である。
こうした結果を受けて横田さんは、職員間での共通認識の必要性を指摘されています。
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最後に、以下のように横田さんはまとめられています。
・‘子どもにとって居心地がよく、夢中になれる空間’であるための具体的なチェックリストを作成するならば、既存のガイドラインやマニュアルに加える形で、各園の設備環境や子どもの姿に合わせ、適切な援助を行うための園独自のチェックリストを作成することが必要である。
・チェックリスト作成過程において、「何が防がなければいけない事項で、何が子どもの成長につながるのか、またどのようにして成長につなげるのか」といった点において、職員間で情報の共有、意見の交換を行うことが重要である。
・チェックリスト作成過程を経て、園全体で共通認識を持つことこそが、その園独自の‘子どもにとって居心地がよく、夢中になれる空間’を整えることにつながる。
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(石田より)
園での安全/危険について職員全体で議論し共有することの重要性は、前記事でご紹介しました野田舞さんらも指摘されているように、極めて重要なことかと思います。
そして、横田さんのご研究で明らかにされた、実際に起きた危険事例と保育者の危険意識とのズレは、私たちに「なんとなく分かったつもりでいること」への注意喚起をしてくれているように思います。
「分かったつもり」ではなく、自園の子どもたちや園の状況に合った、園それぞれの安全チェックリストを作成し、それを元にしながら、職員間で話し合い調整しながら、子どもたちの安全かつ豊かな遊びや生活を守っていきたいですね。
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【園庭や幼児と自然のについての著書】
『園庭を豊かな育ちの場に:質向上のためのヒントと事例』
園庭園庭全国調査に基づいて、園庭での保育・教育の質をより高めるための視点や工夫をご紹介しています。面積が小さな園や制約がある園での工夫や、地域活用の工夫もご覧いただけます。
* 2019こども環境学会賞【論文・著作賞】を頂きました。
『森と自然を活用した保育・幼児教育ガイドブック』
石田は以下を担当させていただきました。→第1章5「幼稚園施設整備指針と園庭調査を踏まえた屋外環境のあり方と自然」東京大学Cedep園庭調査研究グループ/第1章8「幼稚園教育要領等の5領域に合わせた先行研究」北澤明子, 木戸啓絵, 山口美和, 石田佳織
『保育内容 環境 第3版』
石田は第6章4節「自然環境と持続可能な社会」を担当させていただきました。