飛行機が飛ばなかった夜【前編】 | ハゲとめがねのランデヴー!!

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『深夜特急』にあこがれる妻(めがね)と、「肉食べたい」が口ぐせの夫(ハゲ)。
バックパックをかついで歩く、節約世界旅行の日常の記録。

 

アクシデント三昧

 

ボリビアのラ・パスからペルーのプーノに戻る昼行バスは「道路のトラブル」のせいでキャンセルされ、同日の夜の便に振り替えてなんとかその日のうちにプーノに着いた。
 
そのプーノからわれわれはまずリマへ、そして乗り換えをしてトルヒーヨまで行く飛行機をとっていた。
 
プーノの宿を出る日、宿から空港までのシャトルバスが30分早まった。
それを知らされたのは発車から数十分前、朝食をとっているときだったので、われわれは納得がいかないまま朝食を中断して準備を早めねばならなかった。
 
そしてプーノからリマへ飛んだ。
数時間空港で時間をつぶし、夕方再び同じLCCにチェックイン。
 
リマからトルヒーヨに向かうはずが、搭乗してから機内で1時間ほど離陸を待ち、その後飛行機がキャンセルされた。
リマはいたって平常に見えたが、どうやら天候のせいらしい。
 
飛行機が飛ばない。
このような事態が起こりうることは知っていたが、体験したのは初めてだった。
 
これからどうなるのか。
次の便はいつなのか。
 
時刻はすでに夜の9時である。
 
不安にさいなまれながらバックパックを回収し、航空会社のカウンターに並んだ。
 
流れがさっぱりわからないうえに、荷物を待っていたら長蛇の列の最後尾になった。
そこから2時間立ったまま待つ。
 
旅の間の写真などを見ながらなるべく気を紛らわせようとするが、不安と疲れは蓄積され、それが限界に達しかけた午後11時半、やっとわれわれの順番がきた。

 

 

無能な男

 

われわれの対応をした航空会社の職員は中年の男性で、俳優の勝村政信に似ていた。 
勝村政信には大変申し訳ないが名前を拝借して話を進めたい。
 
勝村は、無能だった。
 
まず外国のパスポートを持つわれわれに平常スピードのスペイン語で話しかけてきたので、わたしは「英語で、ゆっくり、話してもらえますか」とスペイン語で伝えなければならなかった。
 
こうした不測の事態の説明をスペイン語で理解するのは今のわたしには不可能である。
それにただでさえ航空会社とわれわれでは情報格差があるので、交渉を行うにあたって相手の母語に合わせていたらどんどん不利になってしまう。
 
国内線とはいえ国際空港である。
最低限の内容は英語で説明してもらえるだろう、今は翻訳機能もある時代だし、と期待していた。
 
しかしそこから勝村とのまったく要領を得ないやりとりが始まった。
 
わたし「われわれはなるべく早くトルヒーヨに行きたい」
 
勝村「明日の朝9時半の便がある」
 
わたし「それが一番早いのか」
 
勝村「……」
 
わたし「誰か他の職員に確認してくれ」
 
勝村「わかった」
 
しばし待つが、勝村は横のカウンターのテキパキとした女性たちに尋ねるタイミングを見計らってうろうろするだけだった。
その間女性たちは次々と客をさばき、勝村は停滞していた。
 
勝村「9時半の次は午後2時だ」
 
わたし「じゃあ9時半で」
 
勝村がパソコンで処理を始めたので待つ。
 
勝村「明日何時くらいに空港に戻る? 10時くらいか?」
 
わたし「は? フライトは9時半ではないのか」
 
勝村「2時だ」
 
わたし「あなたは9時半と言った」
 
勝村「それは他の人の話だ」
 
この時点で夫は勝村を見限った。
そして横のカウンターにスライドし、有能そうな女性職員の前に陣取った。
 
女性職員は「何か問題が?」と聞いてくれたので、わたしは
 
「この男が9時半で行けると言ったのに急に2時に変えた。
理由を教えてほしい」
 
と説明した。
 
その後女性職員が勝村に何事か指示し、結局9時半のフライトで確定した。
 
わたしはこの時点でかなりうんざりしていた。
 
日本で働いていたとき、実務能力が欠けているにもかかわらず、男というだけで役職がつくというケースを何度も見た。
ペルーでも同様の社会慣行があるとしたら、きっとまわりのテキパキした女性たちより勝村のほうが給与が高いのではないか。
 
ただでさえ眠いなか、胸くそが絶望的に悪くなった。
ペルーが能力主義であることを心から願う。
 
勝村はいちいち処理につまづいた。
そして女性職員の手があくのを待つ間、手持ち無沙汰になったのだろう、われわれにこう聞いた。
 
「チャイナ?」
 
お、おまえ……。
 
フライト時刻の希望など聞くべきことはまったく尋ねなかったくせに、この男は「われわれが中国人かどうか」ということだけを興味本位で知りたがったのだ。 
 
そもそもわれわれのパスポートは勝村の手の中にあるうえ、勝村は国籍の書かれたページを見ながら情報を入力しており、表紙にも「JAPAN」としっかり書いてあるではないか……。
 
わたしは「ノー」と答え、それ以上は何もいう気力がなかった。
 
 
しばらくすると勝村からタクシー、ホテルなど数種類の券を渡された。
そして不毛なやりとりをもうひと展開した。
 
勝村「これはランチの券だ」
 
わたし「明日空港で使えるということか」
 
勝村「いや、今日だ」
 
わたし「は? もう真夜中だがランチ?」
 
女性職員の説明でそれはフードコートで本日使えるディナーの券だと判明した。
ちなみにホテルの名前や空港からどれくらいかかるかなど勝村からは一切説明がなかったので、すべてこちらから尋ねた。
 
もはや語学力の問題ではなく無能だった。
夫は「空港で働く人って頭いいんやと思っとった」と言った。
 
ペルーに縁故採用や年功序列がこれ以上蔓延しませんように。
この国の未来と今後訪れる旅人のために心から祈る。
 
 
すべての処理が終わったとき、わたしは嫌味のつもりで勝村に「シエシエ」と言った。
すると最後の客の対応が終わった安堵からか、勝村は晴れやかな笑顔でこう言ってきたのだ。
 
「再見!」
 
……ああ……この男には嫌味すら通じないのだ……。
 
深い疲れを感じながら捨て台詞としてわたしは「ノー・ソモス・チノス!(スペイン語で「われわれは中国人ではない!」)」と言ってその場を去った。
 
勝村は一瞬意表を突かれたような表情をしていた。
 
わたしはとにかくこの男には絶対に再見したくないと思った。
 
後編に続く。
 
 
*この人物は俳優の勝村政信とは無関係であることを再度ことわっておく。
 

 

考古学・人類学・歴史学博物館

トルヒーヨにある考古学・人類学・歴史学博物館は中規模のちょっと古い博物館であるが、モチェやチムーといったトルヒーヨゆかりの文化をはじめ、ペルーの他地域の遺物も展示している。
入場料も安く(1人230円くらい)、町の中心部近くにある。
 
もう何も考えず、土器を見て癒されよう。
 
(三角形は女性器なのかもしれないが、パンツはいてるみたい)
 
(ぴゅー)
 
(ごろごろ〜)
 
(だらーん)
 
(あっちょんぶりけ)
 
 
 

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