レストランで巡礼メニュー
さて、巡礼中の夕飯はなるべく自炊していることは前に述べたとおりだが、たまにはバルやレストランにも行っている。
巡礼者向けに割引や特別メニューを用意しているところもあり、ワインとパンに料理2皿、デザートがつくのが定番である。
リャネスという町はちょっとした規模がある町で、観光用の小さな汽車が町中を走っており、レストランやバルがひしめいている。
せっかくなので名物料理を食べようと、シャワーや洗濯を済ませた後、街に繰り出した。
事前にアタリをつけていたレストランに向かうと残念ながら閉まっていた。
しかし店のおばさんが別の店を教えてくれたので、そのうちの一軒に入る。
ここにはメニュー(コース料理)があり、巡礼者には1ユーロ割引してくれる。
料理の選択肢も多く、夫とわたしで別々の料理を注文してシェアすることにした。
まず、飲み物。
アストゥリアス名物のシードルを選ぶと、シードルを注ぐおじさんの人形を瓶に取り付けたシードル(ややこしいので写真を参照いただきたい)が出てきた。
スイッチを入れると、人形から勢いよくシードルが出てグラスに注がれる。
おもしろい。
非常におもしろいので購入したくなったが、日本でどのくらいシードルを飲む機会があるのかとふと我に返り断念した。
海外に来ると、今後使う当てはないのに物欲を煽るようなアイテムがたまに現れるので困る。
料理の1品目はこの地方(アストゥリアス)名物の「ファバダ」と、「タコ入りのポテトのスープ」を選ぶ。
ファバダは白インゲン豆とベーコン、赤と黒2種のチョリソを煮込んだもので、以前缶詰で食べたがやはり缶詰でないものは一層おいしい。
味は濃いにもかかわらず、豆の甘味によって全体的にやわらかい印象になっている。
またよく煮込まれているため、口の中で具がとろける。
しかし「タコ入りのポテトのスープ」はさらに予想を超えたうまさである。
というのも、まずタコが多い。
メニューには「Patatas con pulpo」とあった。
わたしにはまだスペイン語の機微がわからないのであるが、「con」とはこの場合「〜と一緒に、〜を含む」のような意味だと認識している。
たとえば「Café con leche(ミルク入りコーヒー)」とはミルクがたっぷり入っているけれども、それはあくまでコーヒーの一種であり、存在を決定づけているのはミルクでなくコーヒーの部分であろう。
よってこのスープも「タコ(pulpo)も入ってますけど基本はジャガイモ(patata)のスープ」という認識で注文したのだが、タコが、なかなかどうしてけっこう多いではないか。
しかもとろみのあるスープの中では色の見分けがつかず、「ジャガイモと思って口に入れたらタコ」という嬉しい誤算が口の中でしょっちゅう起こる。
黄土色のスープにはタコの味が染み出していて、幸せな気分になるスープであった。
2品目もアストゥリアスの名物を選ぶ。
「カチョポ」と「カブラレス」である。
「カチョポ」は2枚の肉(鶏肉のような味)でチーズをはさんで揚げており、中のチーズがとろける。
付け合わせはフライドポテトと赤パプリカで、食べ応え十分の大きさである。
「カブラレス」とはこの地方のブルーチーズの名のようだが、そのチーズがサクッと揚げた豚肉に塗りたくってある。
チーズはまろやかで、クセは少なめ。
ブルーチーズが苦手なわたしもおいしく食べられる。
そして最後にデザート。
デザートも数種類から選べたので、米スイーツが好きなわたしは「アロス・コン・レチェ」、夫はチーズケーキを注文。
「アロス・コン・レチェ」は米のミルク煮にシナモンをかけたもので、意外といろいろな国で見かける。
このレストランのものは米がかためで食感が残っているのがうれしい。
夫のチーズケーキはケーキというよりチーズ風味のプリンで、しっとりかつずっしりしている。
円安の今、レストランの食事は高い。
高いが、量と質を考えるとここでのメニューは割安だった。
アストゥリアスの郷土料理はあまりある満腹感と幸福感を与えてくれたので、わたしはアストゥリアスにいる間にもう一度、こうした巡礼メニューを食べようと決意したのだった。
後編に続く。
(Gastrobar La Plaza de Llanesにて。
これはファバダ)
(タコとジャガイモのスープ)
(カブラレス)
(シードル注ぎ機)