カミーノの特別ではない一日・後編【スペイン巡礼日記 #14】 | ハゲとめがねのランデヴー!!

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『深夜特急』にあこがれる妻(めがね)と、「肉食べたい」が口ぐせの夫(ハゲ)。
バックパックをかついで歩く、節約世界旅行の日常の記録。

 

州境を越えて

 

 

巡礼21日目、「おいしかったなあ」と昨夜のディナーを思い出しながらセルディオを出る。

 

7kmほど歩いたところにウンケラという町があり、ここでは「ウンケラのネクタイ」という菓子が名物だとカミーノのアプリに書いてあった。

 

情報は書物から、というのがわたしの常でありアプリの情報などに従いたくはないが、気になるのでカフェに入って食べる。

 

「ネクタイ」の名はその形からきたようで、サクサクの細長いパイ生地にアーモンドと甘いペーストがのっかっており、コーヒーに合う。

夫曰く「見たままの味」でわたしもそう思ったが、名物というのは土地の思い出であり、なぜ夫はいつも気分を盛り下げるようなことを言うのかまったくうんざりである。

 

そしてその後橋を渡り対岸へ。

この川がカンタブリアとアストゥリアスの州境のよう。

 

もうすぐカミーノも約半分、400kmを歩いたことになる。

3つ目の州に入ったことで、あっというまではあったがずいぶんな距離を歩いたのだと改めて感じた。

 

バスクが山々と独自の言葉で鮮烈に迎えてくれた土地だとすれば、カンタブリアは洞窟壁画群と洗練された都会の印象が強い。

 

アストゥリアスはどのような土地なのだろう。

決して高くは見えないが無骨な雪山に抱かれたこの地域で、人々はどんな暮らしを営んでいるのだろう。

 

 

季節は確実に進む

 

さて、5月に入りずいぶん暖かくなった。


これまでは風が冷たいためパーカーを羽織って歩いてきたし、雨が降って濡れた日などは軽い震えもあるほどだった。


しかし土地柄なのか季節の変化なのかわからないが、日中歩いているとTシャツ1枚でも汗ばむようになってきて、そういえば咲いている花も春の初めの小花とは少し異なってきたように思う。

 

洗濯が面倒なのと胸部の圧迫感が不快であるため、巡礼早々から

 

「ノーブラでいいや、どうせ誰も見てねぇだろ」

 

と開き直っていたのだが、Tシャツ1枚になるとさすがに……という気もする。

 

まあしばらくいいか。

どうせ誰も見てねぇだろ。

 

ちなみに夫は雨で洗濯物が乾きにくそうな日は

 

「今日は汗かいてへんしいいやろ」

 

と理屈をつけてパンツの洗濯をさぼっていたが、たとえ発汗していなかったとしてもそれはさすがにどうかと思う。

誰も見ていないからといってパンツはどうかと思うし、暑くなってきたのでもうその理屈も通るまい。

 

 

さて、丘を登ってコロンブレスという町に到着。

ここでは寄り道をして移民博物館へ。


投宿予定の町はまだ先なので駆け足であったが、ラテンアメリカに移住したアストゥリアスの人々についての展示を見る。

 

時間は短かったがこの博物館で得たアストゥリアスの人々の印象は、今後の旅の中で思い出す機会があるような気がする。

わたしはオーストラリアでのワーホリ以来、「移住」というキーワードが非常に気になるのである。

 

 

理想のバゲット

 

丘を下り、道路沿いに住宅やバルがまとまったラ・フランカという町に着く。

アルベルゲにチェックインする前に、遅めのランチを食べようとバルに入る。

 

注文したのはトルティーヤ(スペイン風オムレツ)と、ボカティージョ(サンドイッチ)。


店の天井から肉がたくさん吊り下がっていたので、きっと肉にこだわっているのではないかとにらんでボカティージョの具はハモン(生ハム)にする。

 

そして出てきたボカティージョは、たっぷりはさまれたかみごたえのあるハモンもうまかったけれど、こだわりはむしろパンのほうであった。

これまで食べた中で、一番おいしいバゲットだったのである。

 

皮が薄くパリパリしており、中はもっちりしている。

そして全体的に軽めで、潰すと薄くなって噛みやすい。

 

夫はパンが好きである。

「おいしいパンにバターを塗って食べたら充分幸せ」と常日頃から言っているほどだ。

 

そしてスペインのバゲットはうまいが皮がかたい。

かたいと知っていても夫は口を大きく開けてガブっとほおばるため、パンが口の中に突き刺さって何度も出血していた。

 

「口の中が傷だらけやねん。

そのくらいの覚悟をもって食べとんやで」

 

と言いながらほおぶくろをふくらませて咀嚼する夫を見ながら、

 

パンとはそこまでして食べるものなのか……

 

と思っていたが、このバルのパンはたしかにおいしい。

皮が薄く噛みやすいため、夫の歯ぐきに突きささることもなかろう。

 

このバルの釜焼きなのであろうか、バゲットの販売もしていたので夕飯と翌日の昼食用にも買った。

 

これまではバゲットは「安くて腹にたまるから」というだけでスーパーのもので満足していたわたしであったが、このバゲットを食べた以上、バゲットというものの奥深さを認めざるをえない。

 

わたしの趣味である博物館めぐりが夫に少しは影響しているように、夫の食への執着もまた、わたしを変えているのかもしれない。

 

 

さて、セルディオもラ・フランカもただ単に、距離や宿の都合で選んだ町だった。

どちらも目立った特徴のない小さな町で、商店やレストランの選択肢も限られている。

 

しかしそういうときほど、うまい店やいい景色に出会える。

 

毎日いくつも丘を越え町を通るが、行ってみないとどんなところなのか、何があるのかわからない。

 

通常の旅行では絶対に立ち寄らないような町。

どんな選択にも意味があり、価値があるということなのかもしれない。

 

朝から7時間前後歩いてやっと荷を下ろし、シャワーを浴びて洗濯をして、夕飯の準備に入る。


わたしは田舎の宿でなんでもないルーティンをこなしているときが、最もカミーノらしい時間だと思う。

 


(カミーノの標識は一様ではなく、個人宅に設置されているものなどオリジナリティがある。

レアなものをみつけるとつい足をとめてしまう)

 

(州境の川を越えてすぐ、カミーノを歩く人の像があった。

左手でカミーノのシンボル、ホタテ貝を指差している。

どういう人なのか検索してもわからなかった)

 

(済州島一周の「オルレ」では石垣をたくさん見たが、スペインのものは済州とは石の種類が違うなあと思う)

 

(空をかっとばす飛行機雲)

 

 

(コロンブレスの移民博物館の展示。

ラテンアメリカに渡り、スペインに戻った人のスーツケースと思われる)

 

 

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