最近の巡礼生活【スペイン巡礼日記 #15】 | ハゲとめがねのランデヴー!!

ハゲとめがねのランデヴー!!

『深夜特急』にあこがれる妻(めがね)と、「肉食べたい」が口ぐせの夫(ハゲ)。
バックパックをかついで歩く、節約世界旅行の日常の記録。

 

ハッカと発汗

 

以前スペイン巡礼路の《フランス人の道》を歩いたとき、われわれには何人か日本人の友人ができた。

ときどき連絡を取り合い、今も縁が続いている。

 

そのカミーノ・フレンドが、また性懲りもなくスペインを歩くわれわれに、せんべつとして携帯用のハッカスプレーをくれた。

 

アルベルゲのベッドは毎日違う巡礼者が寝ては去り、寝ては去りするものである。

シーツのないアルベルゲもあるしホテルとは様相が違う。

 

虫除けとして重宝するこのスプレーは、カミーノを歩いた友人ならではの配慮だ。

 

しかし近頃このスプレーは虫除けやベッドの清涼剤としてより、われわれの汗のにおい消しになっている。

 

夫は

 

「なんかクサイと思ったら、肩の部分が酸っぱいにおいがするねん……」

 

と言ってわたしにリュックやバックパックのにおいをかがせてきた。

それは確かに駄菓子屋で売っているイカの酢漬けのような臭気であった。

 

そして夫にハッカスプレーを渡したところ、夫は翌日こう言った。

 

「クサイとこにハッカスプレーかけたら、牧草のにおいになったで」

 

中年男性の汗にハッカを足すと、発酵した香りを漂わせる牧草のにおいになるとは……。


これはイグノーベル賞を狙える大発見かもしれない。

 

 

信じられない!

 

先日とあるアルベルゲ(巡礼宿)でチェックインの手続きをしている際、わたしのパスポートを見ながら情報を記入していたスタッフのお兄さんはこう言った。

 

「えっ……ほんとに? 

ほんとに◯年生まれ?」

 

そしてケータイの翻訳機能に向かいペラペラとしゃべり出したので翻訳を見てみると、

 

「私とあなたは同い年ですが、あなたは20から22歳かと思いました。」

 

とあり、さらに

 

「エス・インクレイーブレ!(信じられない!)」

 

と付け加えなぜかハイタッチ。

 

わたしは30代半ばであり、日本では実年齢より若く見られたことなど一度もなかった。

しかしここスペインではわたしは20歳に見えるのか。

 

おお……

おお……

わたしは20歳!

 

気持ちがインクレイーブレなくらい若返る。

 

ここは正直なスタッフのいる素晴らしい宿であり、シャワーがぬるま湯程度の温度で寒かったことなど問題ではない。

夫が「あのお兄さん女好きやで」などと言っていたのも、まったくもって見当違いであるといえよう。

 

 

カミーノと就職

 

さらにまた別の日の朝、歩き始めて間もない時間、重い荷を背負ってちんたら歩くわれわれを抜いていくとき、長身の白人のおじさんはこう問いかけた。

 

「君たちの国では『カミーノを歩いた』と言うと、就職に有利になるか」

 

わたしはとっさに

 

「カミーノはわが国では年々多くの人が知るようになっているが、しかし大多数の人はどんな道なのか知らない。

職種にもよるが、一般的に就職に有利になることはないだろう」

 

と答えたが、しかし、ちょっと待て。

世界にはカミーノを歩いたことが就職において有利な判断材料となる国があるとでもいうのか。

 

あまりに意表をつく質問だったためオッサンを引き止める間もなく別れてしまったが、もしかするとヨーロッパでは「800km歩き抜く体力と精神力」や「多国籍な環境でのコミュニケーション力」、さらには「海外生活に耐えうる総合的な人間力」などが評価されたりするんじゃないか。

 

待て待て待て待て、わたしと夫など今再就職のアテなど何もないくせに無職で世界一周をしており、日本では評価されないどころか

 

「いい歳して働きもせずフラフラと……」

 

と侮蔑の対象となるような存在であって、帰国したら有給やボーナスなどない非正規雇用を2人でやっていくしかないと思っていたが、もし「カミーノを歩いたことが評価される」というのであれば未来は180度異なる。

 

われわれは今カミーノの《北の道》を歩いているばかりか、すでに《フランス人の道》800kmを歩ききっており、韓国やモンゴルの《オルレ》も制覇し、夫など熊野古道まで歩いている。

 

そのうえわたしはスペイン語をいくらか習得し、

 

「乾燥機はいくらかかりますか」

「そのトルティーヤをテイクアウトでお願いします」

「巡礼者のためのハンコはありますか」

 

などとスペイン語でスラスラ言えるぞ。

「巡礼者のためのハンコはありますか」というスペイン語がスラスラ出てくる日本人など、かなり稀だと思うぞ。

 

これらがすべて評価されれば、中途採用でいきなり部長待遇くらい与えられるのではないか。

 

どこだ。

どこだオッサン、その国はどこなんだ。

 

われわれの将来がかかっている問題であるので、行かないでくれオッサン。

見捨てないでくれオッサン……!!

 

 

と、まあ、そんなふうにしながら歩く巡礼路であり、牧場からなのか夫からなのか出所不明の干し草のにおいをかぎながら、本日も一歩一歩スペインを西進しているのであった。

 

 

*巡礼オブジェ*

 

(巡礼路では巡礼者をモチーフにしたオブジェに出会うことがある)

 

(巡礼のシンボル、ホタテ貝が胸に)

 

(特に際立った特色のない小さな集落と思っていたら壁画がたくさんあった。

アストゥリアスの高床式倉庫も背景に描かれていて興奮した)

 

(積まれた石をよく見ると巡礼者がいる)

 

(わたしも帰国したら石に絵を描こう)

 

(カミーノの合言葉「ブエン・カミーノ(よい道を)」。

さりげない励ましで疲れがちょっととれる)

 

 

 

にほんブログ村 旅行ブログへ
にほんブログ村