洗濯物が乾かなかった日
巡礼のペースは人それぞれであり、1日にどのくらい歩くかは自由である。
日程的な余裕がない人や体力に自信のある人は30kmくらい歩くであろうが、われわれは重い荷物を持った中年夫婦。
無理せず1日の距離を20km以下に抑え、夕方早いうちにチェックインできるよう予定を組んでいる。
体力的な調整以外にも、早めチェックインを狙う理由はある。
われわれは宿にチェックインしたらすぐさまシャワーを浴びつつ洗濯をする。
そして宿の庭にはたいてい物干し場があるので、日当たりのよい場所を狙って干す。
4月のスペインは夜の9時過ぎまで明るいが、気温はさほど高くない。
日は差していても夕方から肌寒くなる。
いかに早く洗濯を終え、日が照っていて気温が高いうちに外に干せるか。
それがその日のうちに洗濯物が乾くかどうかの分かれ目である。
宿への到着が遅くなったその日、洗濯物が十分に乾かないまま翌日を迎えた。
われわれは各々半乾きの靴下やTシャツを荷物にひっかけて歩いた。
そして都市部を抜けて人の少ない郊外に出たとき、われわれはパンツを帽子の下にはさんで歩くという技を編み出した。
首や頬の日焼け防止にもなる。
しばらくそのようにしていたが生理用ショーツというのは布が二重になっていてとても乾きにくく、見かねた夫は自分の前掛けのリュック(夫は後ろにバックパック、前にリュックを背負っている)にわたしのパンツを大胆に取り付けた。
たしかに日が一番ダイレクトに当たる方法ではある。
夫は頭に自分のトランクスをかぶり、胸にわたしのパンツを取り付け、
「人妻のパンツいらんかね〜」
とパンツの行商人になりきって歩いていたところ、すれ違った女性2人組に
「パントゥ!」
と笑われていた。
以後夫と並んで歩くのが恥ずかしくなったが、気付かれたのはわたしのパンツであるので責任は分け合わねばなるまい。
このように巡礼路では日々恥をかき捨てる必要があるが、捨てた分以上に得るものもきっとあるだろう。
巡礼2日目からは快晴が数日続き、海も山も美しい色を見せてくれたのである。
(丘と海と空が並行して色の層を作り出すなか、赤屋根の家や木々がアクセントになっている。
絵本で見るような風景は実在するのだ)
(カミーノにありがちな風景。
こんな風景が当たり前になるからこそ、もう一度歩きに来てしまった)
(不自然な自然)
(羊をめずらしく思うのも最初だけ)
(済州島と同じく海の近くを通るが、岩の色や形は違うなあと思う)