アユタヤはコーヒーの実験場【前編】 | ハゲとめがねのランデヴー!!

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『深夜特急』にあこがれる妻(めがね)と、「肉食べたい」が口ぐせの夫(ハゲ)。
バックパックをかついで歩く、節約世界旅行の日常の記録。

 

「ブルーベリーレモンパイ味」

 

夫は観光プランの組み立てや移動手段の調査、宿の予約などの雑務を全てわたしに丸投げしているが、唯一、まれにではあるが自主的に調べているのがカフェや食堂である。

 

われわれはカフェが好きだ。

コーヒーも好きだし冷房も好きだ。

 

コーヒーについて詳しくわからなくても「このコーヒーはこういう味がする」だのなんだの言い合うのが好きであり、周りが日本語を理解していない状況であればなおさら好き勝手言えるのでよい。

 

というわけで遺跡の町アユタヤで、アユタヤの歴史になど何の興味も示さない夫とともに、夫が調べたカフェめぐりをしていた。

 

結論から言うと、アユタヤのカフェは他の国や地域のものとは違った。

その様子を2軒のカフェとともに紹介したい。

 

 

まずは観光の中心部から少し離れた場所にあるカフェ。

明るい店内は決して広くはないが、カップルや一人客が気兼ねなくくつろげる雰囲気だ。

 

そこのメニューで目をひくのは、ハウスブレンドのリストである。

 

たいていハウスブレンドというのは店ごとにひとつかふたつであり、オーソドックスというか無難というか、味の特徴が際立ってあるわけではないというイメージであった。

 

しかしこの店のハウスブレンドは10種類近くあり、それぞれ名前がついている。

 

「ストロベリー」

「ブルーベリー」

「ブルーベリーレモンパイ」

「チョコラムレーズン」

「ミルクチョコレート」

 

などなど。

 

ストロベリー、ブルーベリーは酸味のある豆なのだろう。

 

以前日本のコーヒースタンドで「いちごポッキーの味」と書かれたコーヒーを飲んだことがあるが、それは本当にいちごポッキーの風味があった。

つまりコーヒーにはその種の酸味があることもある、ということは知っている。

 

しかしこのアユタヤのカフェでは「ブルーベリー」と「ブルーベリーレモンパイ」が分かれており、「ブルーベリー」があるにもかかわらずあえて「レモンパイ」をつけたものが別にあるということは、「レモンパイの味がしっかりプラスされている」というアピールであろう。

 

わたしは「ブルーベリーレモンパイブレンド」をアイスでたのんだ。

 

出てきたコーヒーを飲む。

 

これは……

これはブルーベリーレモンパイである……!!

 

ブルーベリーの香りがまずただよい、次にレモンパイの味がする。
「レモン」ではなく、「レモンパイ」の味。

いったいどういうからくりであろう。

 

 

わたしはコーヒー豆を絵の具のように考えていた。

 

 一般に色というのは混ぜれば混ぜるほど黒に近付いていく。

よって、混ぜない原色のままのほうが色鮮やかなように、コーヒーの味もシングルオリジン(他の原産地や品種と混ぜていないもの)がもっともフルーティーで華やかと思っていたのだ。

 

しかしこのブレンドはタイ、エチオピア、グアテマラの豆で構成されているとメニューの説明にある。

 

エチオピアとグアテマラはよく飲むので、繊細だったりフルーティーだったり果物系の味がするのは理解できる。

しかしそこにタイを混ぜたら「ブルーベリーレモンパイ味」になるというのは、タイの豆とは魔法の媒体だとでもいうのか。

色の例えでいうと赤と緑と紫を混ぜたら金色になった、ぐらいの衝撃。

 

タイのコーヒーとはなんなんだ。

 

わたしはこの瞬間から、「コーヒーは中南米」という思い込みは捨てた。

アジアのコーヒーも澄んでて深くておもしろいじゃないか……!


普段ブレンドをあまり注文しないのだが、この店のものは片っ端から試したい気分になった。

結果アユタヤ滞在中4種類を試したがすべてがおいしく、しかも付けられた名前通りの味。

毎回びっくりさせられた。

 

 

ブレンドの魔法

 

しかしあまりに名前通りの味がしすぎる。

このような経験は初めてだ。

 

ひょっとすると、たとえば「ストロベリー」という名前を最初に見ることによって舌のセンサーが「ストロベリーが来るぞ」と身構えるのかもしれない。
脳と舌のインサイダー取引である。

しかしそれを差し引いても「チョコラムレーズン」のラムレーズン味は、コーヒー豆のみで生み出せるものなのか。

 

わたしは

 

「これはこっそりラムを入れているんじゃないか」

 

と疑った。夫は

 

「この店はちゃんとしとんで、豆だけやと思うで」

 

と反駁した。

 

そして注文後それとなく作る様子を見ていたが、特に何かを混ぜ込む動作は見られなかった。

 

最後にはわたしはこう思った。

 

よしんばカウンターの裏側でこっそり香料やラムなどを混ぜ込んでいたとしても、このアレンジには脱帽である。

そしてコーヒー豆のみの味であれば、このブレンドは第一級の発明である。

 

 

インドネシアは安価に素晴らしいコーヒーが飲める場所であったが、それは「豆がうまい、それをきちんとした手順に沿って淹れるとちゃんとおいしくなる」という、どちらかというと素材の味を活かすがゆえのうまさであった。

 

しかし、タイ。

そのなかでもアユタヤ、いや、われわれが行った2軒のカフェでは、コーヒーを実験している。

 

今回紹介したカフェは味の組み合わせの実験であり、次に訪れたカフェは、抽出器具や器での実験であった。

 

後編に続く。

 

 

(アユタヤのカフェ、Coffeenity 。

でっかくて丸い氷が一つ入ったアイスコーヒー。

ラテには細かい氷が使用されていたので、ブラックコーヒーでは味が薄まらないよう氷の表面積を最小限にしているのではないか)

 

(壁にずらりと貼られた豆の袋。

世界中の様々な豆を試したのだろう。

バリスタとは研究者である。

 

ついでに夫はこの店の「タイスタイルコーヒー」を気に入っていた。

このコーヒーではまず、練乳の甘さがガツン、とくる。
しかしその直後に

 

コーヒー、コーヒー、コーヒー! 

 

の風味が強くやってきて、後味は強いコーヒー味である。

 

安っぽいコーヒーであれば最初から最後まで甘さが続くものの、さすがこだわりの店、どんなに練乳を入れても豆の味が損なわれていなかった)

 

 

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