「コピ•ルアック」をボロブドゥールで
映画「かもめ食堂」の、コーヒーを淹れるシーン。
フィルターの中のコーヒー豆をならし、真ん中を少し指で押す。
「コピ•ルアック」と唱える。
そして湯を注いでゆく。
それがコーヒーをおいしく淹れるおまじないなのである。
その「コピ・ルアック」とは、インドネシアで作られるジャコウネコの糞のコーヒーである。
糞、というがもちろん糞を飲むわけでなく、ジャコウネコにコーヒーの果実を食わせ、体内で発酵した豆を糞から取り出して作った稀少なコーヒーというわけだ。
これが糞だけにクソ高い。
日本ではあまり見かけないうえに、あったとしても手が届かない値段だったりする。
その専門店がインドネシアの遺跡の町、ボロブドゥールにあった。
どうせ高いだろうと入り口で躊躇していると店員が出てきた。
おそるおそる値段を聞くと、
……高く、ない。
というわけで、この機会を逃すものかと店内に入ったのだった。
店は単なるカフェではなく、「コピ•ルアック」の作り方を客に説明する場でもあった。
まず糞として取り出された段階の豆を見せてくれた。
まるでナッツをチョコでコーティングしたナッツバーのようである。
これを洗浄して焙煎するのであろうが、ありがたみが増すのか減るのかよくわからない光景だ。
次にカフェスペースを通り抜けた奥に移動し、実際に飼われているジャコウネコを見せてもらう。
「ネコ」と名がつくものの、モノトーンの毛色でネコにしては大きく、むしろタヌキのような生き物である。
エサはバナナやパパイヤを与えており、豆がフルーティーになるのだとか。
夜行性のためぐったりしていたけれど、夫は珍しい動物を見て喜んで写真を撮っていた。
一方わたしは「今からこいつの糞コーヒーを飲むのか」という複雑な気持ちになったのだった。
そしてやっとカフェスペースへ。
このカフェではアラビカ種とロブスタ種、2種類の豆を提供しており、どちらも一杯約250円。
せっかくなので飲み比べをしようと一杯ずつ注文した。
運ばれてきたコーヒーはどちらも色が濃く、白いシンプルなカップとの対比が美しい。
アラビカ種はしっとりまろやか、角がない味。
時間が経つと少し酸味が出てくる。
ロブスタ種は苦味があるが飲みやすく、にごりがない。
しっとりしたブラウンシュガーをかじった後にこのコーヒーを飲み、口の中で混ぜるととてもよく合う。
夫とわたしは「喫茶店の味やなあ」と言いながら交互に2種類のコーヒーを口に運び、一緒に行った日本のカフェをいくつか思い出した。
それはレコードでジャズが流れる純喫茶や、商店街にあるカウンター席の喫茶店であり、マスターが丁寧に淹れてくれたこだわりのコーヒーを出すような店である。
「コピ•ルアック」は、ジョグジャカルタで堪能した「フルーティーで苦みのない今どきのコーヒー」ではなく、昔ながらの深い味。
最高級かどうかは
「そ、そう言われたらそうかな?」
というのが正直なところであるが、おいしかったのはまちがいない。
コーヒーを飲み込んだあとの吐く息までもいい香り。
ほっと一息つけるぜいたくな時間であった。
(ナッツバー状の糞)
(眠いところを叩き起こされたジャコウネコ)
(この個体はバリ島のカフェにて)
(「Pawon Luwak Coffee」にて、コピ•ルアック2種とブラウンシュガー。
豆の販売もしていたがやはりクソ高かった。
ちなみに野生のジャコウネコのものはさらに値段が高く売られているのをバリ島で見た。
日本の魚でも天然と養殖では値段が異なるのと同じなのかもしれない)
夫のインスタ⇩ よく雲を見上げては「雨があそこだけ降っとる」とか言っていた。
最後の写真には虹。