カルトの国(2) | QVOD TIBI HOC ALTERI

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„Was du dir wünschst, das tu dem andern“.

 どの国でも、どの時代でも、ほとんどの人は、何らかの宗教ーある信念体系ーの信者である。無神論者は、無神論の信者であり、機会主義者は機会主義の、共産主義者は共産主義の、新自由主義者は新自由主義の、それぞれ信者である。誰もが何らかの精神的支柱ー精神的牢獄ーに依拠しなければ、生きていくことさえ、覚束ないのである。

 これは、無宗教性が特徴とされる日本人も、全く同様である。彼らの多くは決して無宗教ではない。信念を持たず、無責任という特徴を併せ持つ、「日本教」とも言うべき日本至上主義を謳う疑似宗教の信者であると、私は思う。何故信念を持たないのか?「和」を重視するこの国では、個人がある特定の信念を持つと、他者と融和不可能な衝突を起こすからである。何故無責任なのか?この社会では、「無私」であることが前提とされるため、建前上、責任をとるべき所在が見当たらなくなるからである。

 その一方で、これもあくまで私見であるが、この国では、あらゆる場面で「無私」を強制されるため、日本人は心的抑圧を受け続ける。その反動で、かえって強烈なエゴを秘匿するようになる。結果として、その時その時、最適な世俗的利益を享受できるように自在に変化する、日和見主義・ご都合主義という信念、あるいは、「信念を持たない」という確固たる信念を持つ、強烈なエゴイストが誕生する。これが「カルト信者」としての日本人の特徴であると思う。

 分不相応に見栄っ張りで、体裁には人一倍気を使う小心者でもある「日本教」の信者の特徴は、それだけではない。海外に一度すら出たことのない者が、「日本は世界で一番暮らしやすい」としたり顔で連呼するのを聞いて、井の中の蛙そのものであると思ったことが何度あることか。あるいは、日本人は世界一優秀とか、日本の原発は世界一安全とか、何でも日本は世界一であると、何の具体的・客観的根拠もなく、マスメディアやその他大勢がそう叫ぶのを耳にし、その度に、幾度となく馬鹿馬鹿しく思ってきた。

 カルト信者としての日本人は、外の世界を知らないし、知ろうともしない。否、事実を知ろうとしない。これは、歴史問題を一つ取り上げてみても納得できるであろう。日本は侵略戦争をしなかったとか、日本はアジアの独立のために英米と戦ったとか、日本はあの戦争によってアジア諸国から感謝されているとか、事実を知っているものならば誰も端から相手にしないような寝言を、社会的立場のある者が平然と言ってのける国が、カルト信者の巣窟でないわけがないのである。

 以下、目に止まったあるブログ記事へのコメントと、それへの返信の引用である。

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 太平洋戦争は紛れもなく、ABCDラインによる経済封鎖に対抗するための自衛戦争でした。ではなぜ勝てない相手に戦争を挑んだのか、それは「日本が欧米列強の要望通り退いたらアジアが欧米の植民地になること」を恐れたからです。
 

 当時アジアにまで欧米列強の植民地被害が進む中で、日本は何とか抑えたかった、それがあの戦争です。あのままでは日本も危うかったですので。

 日韓併合も、その前の日清戦争で独立させたのに、ロシアに併合されようとしているのを防ぐためのものでした。経営史的な観点から言っても、資源は中国で十分であり仮に日本が資源欲しさに朝鮮大陸に矛先を伸ばしたのなら、朝鮮を併合する必要はありませんでした。実際、朝鮮投資はほとんど赤字です。

 そしてなぜ日本はあそこまで困窮するまで戦争を止めなかったのか、それは止めた後の欧米列強の植民地化への恐怖です。実際、ヤルタ会談などでは日本4分割統治まで話し合いがされていました。

 以上のように日本は決して自分の都合と無知、宗教観で侵略し、戦争をし、長引かせたわけではありません。相応の理由があるわけです。
 

 ですが、日本は敗戦国ですので、欧米列強の戦争行為の正当化の代償として日本「だけ」が悪いという歴史がまかり通っている。これが今の戦後の歴史観です。

 日本があそこまで戦い抜けたのは、日本人の高い精神性と素養があったからこそ。だからこそろくに資源もない中で零戦という一時期世界を圧倒させたものができ、そして日本軍の頑強さも相手を圧倒させました。

 決してあの戦争や情報統制を正当化するわけではないですが、こうした日本の精神性の高さは誇るべきことではないでしょうか。そういう情報統制は日本に限らず世界にもあったと思いますよ。

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返信 :コメントはありがたいです。議論に深みが出ますからね。

>ではなぜ勝てない相手に戦争を挑んだのか、それは「日本が欧米列強の要望通り退いたらアジアが欧米の植民地になること」を恐れたからです。

 そもそもまず日本が朝鮮や満州を植民地化していたわけです。朝鮮も満州も日本に助けてもらったとは思っていません。世界中もまた、日本がアジアを助けていたとは見ていません。国際連盟では日本以外のすべての国が「日本は満州から手を引くべきだ」と意思表示し、日本は連盟を脱退しました。つまり、日本がいくら「自衛」と主張しても、世界は「日本こそ占領者」と見ていたわけです。

 僕は日本教をカルトだと考えていますが、これこそカルトの怖さです。カルト信者は自分では人助けをしているつもりです。相手を脅迫してでも信者に取り込もうとする。しかし相手から見ればそれは余計なお世話。カルト教団は「人のため」と言いながら、実は奴隷を増やしたいだけに過ぎません。


 日本は「アジアのため」と言いながら、実はアジアを征服したかっただけです。しかも日本の占領政策は欧米よりも高圧的でした。フィリピンなどは、同じ植民地化されるなら、日本よりも欧米が良いと考えていました。士農工商のメンタリティで植民地化されたらたまったものではないからです。


 朝鮮については日本は朝鮮の皇太子妃を殺しました。たとえばアメリカが黒船で日本に来た際、将軍家や皇室を脅すことはしていませんでしたね。しかし日本は朝鮮王族を殺すようなことまでしているのです。これが欧米の植民地経営と日本の植民地経営の違いです。
 

 日本の植民地経営は野蛮極まりないのですが、日本人は自分こそ被害者だと思っている。地下鉄にサリンを撒いて人を殺しても、自分こそ被害者だと思っているカルト信者とあまり変わりないように僕は思いますよ。

>そしてなぜ日本はあそこまで困窮するまで戦争を止めなかったのか、それは止めた後の欧米列強の植民地化への恐怖です。

 岡本喜八の「日本のいちばん長い日」は今まで何度か見ていて、つい先日も見ましたが傑作ですね。黒沢年男のキレた演技が最高です。原田リメークの方は見ていませんが、当時の狂気を演じれる役者はもういないと思います。


 アメリカの占領政策があまりに寛容だったため、今ではもう想像しづらいですが、当時の日本人の敗戦の恐怖は大きかったでしょう。「一億玉砕」も当時はそれなりに根拠のある考え方だったと思います。

>日本があそこまで戦い抜けたのは、日本人の高い精神性と素養があったからこそ。

 しかし日本人に高い精神性があったとしたら、そもそも日本はなぜ負ける戦争を始めたのでしょう?国連を脱退して世界を敵に回したのはなぜ?僕は日本教はカルトだと考えています。カルト信者にとって、教義を失うことは恐怖です。その恐怖が一億玉砕に結びついたと考えます。
 

 日本人は忠臣蔵など、集団死への憧れもあります。究極の連帯感なのでしょう。カルト、連帯感、集団死への憧れ、、、そういったものが徹底抗戦論につながったと考えます。原爆が落ちなければもう日本はなかったかもしれません。

 

(引用ここまで)