好きな人物列伝 石井慧(MMA選手) | 極真会館八王子みなみ野道場のブログ

極真会館八王子みなみ野道場のブログ

国際空手道連盟 極真会館
東京城西国分寺支部
八王子みなみ野道場のブログです。
℡.042-638-0677
〒192-0916 八王子市みなみ野3-2-13ビル2階
メール r.t.minamino@gmail.com

鬼滅の刃が終わりましたね。

鬼滅の刃が終わったショックで今回のエントリーがどうでも良くなってきてしまいましたが、せっかく漫画からパワーをもらったのであれば健全な形でそれを発散するのが作品に対する恩返しになると思って頑張ります。

 

それにしても、好みが細分化した今の世の中にあって、あんなにも男女問わず子供たちが共通の話題にしていた漫画作品はここ10数年なかったのではないでしょうか。

自分の子供の保育園の送り迎えに行ってみると、年長さんたちが鬼滅キャラを普通にお絵かきしていて間口の広さに本当に驚かされました。

道場の小学生たちも「〇〇の呼吸!」と叫び、作品内で出てくる呼吸法の技を真似して遊んでいる姿をよく見かけました。

私もヒクソングレイシーの火の呼吸を真似していましたが、完全にただの呼吸の荒い不審者にしか見えなかったと思います。

 

 

さて、今回ご紹介するのはMMAファイター(総合格闘家)石井慧さんです。

このコーナー三度目にして初めて格闘家が出てきました。

 

今の中学生以下の子はひょっとしたら誰なのか知らない可能性もありますが、大人であればまずご存じの人物だと思います。

石井さんは2008年に行われた北京オリンピック柔道男子100kg超級の金メダリストです。当時21歳、五輪での最重量級史上最年少王者となりました。

優勝直後のインタビューで「オリンピックのプレッシャーなんて斉藤先生(斉藤仁全日本監督)のプレッシャーに比べたら、屁の突っ張りにもなりません」と発言し話題となりました。

そしてその2ヶ月半後にプロ格闘家への転向を宣言し、MMAファイターとしての道を歩み始め、現在もクロアチアを拠点とし、世界各国で活躍しています。

 

 

プロデビュー戦こそ同じく元柔道金メダリストの吉田秀彦選手に敗れはしましたが、その後の戦績は決して悪くありませんでした。しかし、2010年代前半、日本の格闘技ブームの終焉とともに、石井さんの姿はメディアであまり見かけなくなっていきます。

それは、それまでの石井さんのメディアでの取り上げられ方があまり良くなかったのも一因しているかと思います。

 

まず、五輪優勝後の発言に対して軽薄で調子に乗った若造のような印象を持たれた、その後のプロ転向も金メダルを踏み台にした現金なものと捉えられた、というのが大きいです。

また、当時の格闘技ブームは必ずしも日本人選手を応援するものとも限らず、強くて試合内容が面白ければ外国人選手が活躍することも歓迎されていました。堅実に寝技でポジションを取り、相手を消耗させて、一本が取れれば取る、取れなければ判定で削り勝つ石井さんのスタイルは面白くないと見る向きが強かったと思います。

それならそれで現役世界トップクラスのMMAファイターに勝てるか…というとそれも難しいところで、若き柔道重量級金メダリストという期待がむしろ向かい風になってしまいました。

つまり、日本の期待の星でありながら、半ばヒールのような扱いを受けてしまったのです。

 

これにはかなりの部分、誤解やすれ違いがありました。

まず石井さん自身は、調子に乗るどころか自分に才能がないことを認め、それを異常な練習量と研究量でカバーしていくタイプの超努力家です。あの五輪二連覇・斉藤仁が「世界一練習している」と認めるほどでした。

また、元々プロ格闘家志向で、プロへの転向も後付けではありませんでした。五輪のメダルを獲るまでは、柔道が自分の仕事でありその責任を果たさなければならないという意識だったと語っています。

試合スタイルに関しても、元々そういう哲学だったとしか言いようがありません。柔道時代から、鮮やかでキレのある一本勝ちはまずありません。相手の良さを殺し、巧みな試合運びで減点を避け、優勢を続け、その過程で相手に隙ができたら襲い掛かる。国内大会である柔道全日本選手権でブーイングが起きるほど勝ち徹するスタイルでした。

 

プロになった以上、テレビ画面に映るキャラクターや試合内容がその人の全てなのかもしれませんが、それにしても当時過剰なバッシングに晒されていたかと思います。

 

 

そんな石井さんでしたが、日本のメディアにあまり取り上げられなくなってからも海外修行を重ね、2017年には自身が敗れたミルコ・クロコップさんのジムに移籍しています。特にここ3年ほどはMMAでの勝利を数多く重ねています。

昨年7月にTBS系列の『消えた天才』という番組で現在の活躍を紹介されていましたが、消えたも何も本人は継続して努力しているんですね。

2019年末の試合では2連敗してしまいましたが、本人はすぐに立ち上がっている様子です。私も石井さんが世界のトップ戦線に躍り出てくれたらとても嬉しいです。

 

 

なぜ私が石井さんを応援しているかというと、目標に対して行動に妥協がないからです。

MMAという競技が格闘技の全てではありませんが「世界一強い人間になる」という目標を持って重量級としてMMAに臨む、必要とあらばアメリカにもクロアチアにも一人で教えを請いに行く、途轍もなく練習する、言葉も覚える、マネジメントもする…単純にまずそこが凄いです。

ミルコ・クロコップというレジェンドファイターに憧れた日本人は数多くいれど、実際にクロアチアまで師事を請いに行ったのは石井さんだけです。現在はクロアチア国籍まで取得しています。

また、現在、世界の舞台で闘えている重量級日本人MMAファイターは実質石井さんだけです。格闘競技として発達した現在のMMAでは、重い階級で日本人選手が勝つのは極めて難しいことです。ジムとしても重量級のプロ選手を育成することはまずありません。あえてそこに行く、というのがリスキーで、だからこそ魅力的なわけです。

 

ここまで持ち上げておいてなんですが、格闘技にあまり興味のない人が石井さんの試合を見ても面白いと思うことはまずないかと思います。

繰り返しになりますが、基本的には柔道時代と同じく、戦略的に相手の良さを殺しじりじりと削り勝つスタイルです。スピーディーに一発を狙っていく爽快な打撃や、縦横無尽に派手にポジションを変えるような関節技はまずありません。(最近打撃強いですが)

ただ、世界の重量級で闘える唯一の日本人が、バッシングに晒されながらも弛まぬ向上心を持ち、冷徹に勝負を続ける様がいいなと思うのです。

 

前回のエントリーで為末大さんの『諦める力』について書かせていただきましたが、そこに「手段は諦めていいけれども、目標は諦めてはいけない」とありました。

石井さんにとっての目標は「世界一強い人間になること」であり重量級の路線は変えないわけです。同時に、華麗で派手な試合を諦めることによって、妥協なくその目標に邁進しています。

 

柔道時代に、ブーイングを受けながら全日本選手権を制したときに石井さんはこう発言しています。

「美しい柔道って言いますが柔道は芸術ですか? そんなに美しいものを求めるのなら体操でもやればいい」

上下関係が非常に厳しい柔道界において、当時、学生の立場でこんな発言をするのは相当なことだったでしょう。

もちろん、客観的に見ても賛否あってしかるべき発言です。見栄えしないつまらない試合ばかりになったら競技自体が衰退しますし、競技者全体の戦術が偏ればルールは随時変更されていくものです。

ただ、勝負論として、強さを求める当人の気概と誠意として、そこに嘘はないのだと思います。

だからこそ、展開の派手さではなく、純粋に「勝つか負けるか」において、石井さんの試合は見ていて緊張感があり私としては面白いと感じるのです。

 

 

新型コロナウイルスの影響で現在世界中の格闘技興行が中止を余儀なくされていますが、再び石井さんが試合をすることがあればまた応援していきたいです。

本人は現在クロアチアで元気に練習しているっぽいですね。

我々も負けじとガツガツ力をつけていきましょう!

 

ではまた、次回!