307)中国山地を突き抜ける江の川 | 峠を越えたい

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 三次市や庄原市は山陽地方でなく山陰地方にあると言ったほうが良いのかどうか。というのはこの辺りの中央分水嶺が思わぬところを通っているのです。中国山地上ではありません。『日本の主要な分水嶺分水界のマップー地図蔵』(japonyol.net)より、

 中央部を拡大します。

 島根県と広島県の県境(中国山地上)は中央分水嶺の余程北です。中央分水嶺がこれ程南を通っている手掛かりの一つとして「江の川」の流れを辿って見ます。江津市で日本海に注いでおり、名前は結構有名で小学校や中学校の地理でも出て来ました。中国地方で一番長い川です。上の地図上で、芸備線が直ぐ東側を走る「安芸高田」(市)の右上に、「江の川(可愛川)」との記載が見られます。こんなに南まで江の川は遡れるのです。そこで、当然『江の川』(Wiki.)を当ることになりますが、中国山地を突っ切って日本海へ注いでいるんですか? 明らかにしたい中央分水嶺が「江の川」研究と大いに関わっていそうです。。文献として『コンサイス地名辞典―日本編―』(三省堂)は簡潔にまとめています。

 “中国山地を横切って”流れているいるという信じ難い記述に出会いました。水は高きに流れません。どうも広島県北東部を流れる3本の支流を三次市で合わせて、更に下流で中国山地を突き抜けて日本海側に流れ出るようなのです。不思議です。『江の川』(Wiki.)より、地図を借ります。

 江の川は源流を下ると東に流れ、三次盆地に入ると今度は西の方へ、それから北へと奇妙な流れです。中国山地を何処で貫くのか、『小学生の地図帳』(帝国書院、2022)より、

 江の川は中国山地の途切れて見えるところを北方に流れて行きます。『しまね観光ナビ』(HOME>観光スポット>自然>江の川)が易しく解説してくれます。

 “広島県と島根県の県境近くにある阿佐山山塊三坂峠付近に、その源を発した可愛川が、三次盆地で西城川・馬洗川・神野瀬川と合流し、その後、小さい蛇行を繰り返しながら脊梁山地を横切り、邑智郡邑智町粕淵より大きく南西方向に向きを転じ、因原付近から西流し、江津で日本海に注ぐ。「中国太郎」とも呼ばれ、中国地方最大の一級河川である。この川は、上流部の広い地域が中国山地の南側にあり、他の河川とは異なり、脊梁山地の隆起以前からの流路を流れる古い歴史をもつ「先行河川」として有名である。…………”

 江の川の流れは脊梁山地(中国山地)が隆起する以前から存在するんだそうです。難しく記しているのは『江の川』(Wiki.)です。

 “……………最後に標高1,000m-1,300mの中国脊梁山脈が地殻変動によって形成された[14]。この新生代第三紀に起きた山地の造山活動に対し、江の川の下刻侵食力のほうがそれを上回ったためそのまま流路として残り、結果瀬戸内海側から中国山地を断ち切って日本海側へ流れる水系が形成された[14][22][8]”。

 新知識を得ると楽しいです。「先行河川」の例はどれ程ありましょうか。ガンジス川、桂川(保津川)、阿賀野川、大和川、木津川、武庫川、吉野川(の大歩危・小歩危)、最上川、天竜川、高津川(津和野市を流れる)、…………。沢山ありそうです。

 江の川の知識がだいぶ増したところで、「中央分水嶺」に進みます。駅の標高を頼りに起伏を辿りたいと思います。国土地理院地図を用います。先ず福塩線(福山~塩町)が相応しい。北から南方向へ、塩町駅:171m、三良坂駅:181m、吉舎駅:215m、備後安田駅257m、梶田駅:337m、甲奴駅:344m、上下駅:384m、備後矢野駅:306m、備後三川駅:257m。予測分水嶺は名前もピッタリの「上下駅」辺りです。変わった名前を期待のところ、「じょうげえき」では拍子抜けですね。上下駅は三次盆地の南東方向です。

 次は芸備線(広島~備中神代)を調べます。志和口駅:120m、井原市駅:142m、向原駅:207m、吉田口駅:195m、甲立駅:192m、上川立駅183m、志和地駅:176m、西三次駅157m、三次駅:157m。ここの分水嶺は向原駅近辺です。向原駅は三次盆地の南南西方向になります

 芸備線をもっと東に辿ります。備後落合駅:448m、道後山駅:612m、小奴可駅:547m、内名駅:477m、備後八幡駅:408m。道後山近辺に分水嶺があります。道後山駅は三次盆地から北東です。

 これで南南西、南東、北東と3方向で中央分水嶺の凡その位置が分りました。中国山地という中国地方の脊梁山脈が当該地域では中央分水嶺ではないという特殊な状況が分かりました。中国山地の造山運動が起こる以前に江の川が存在していなければ中国山地が中央分水嶺だったのでしょう。

 さて今は無き三江線はほぼ全ての区間で江の川に寄り添っていました。『中学校社会科地図』(帝国書院、1996)を掲げます。

 三次駅からは分水嶺は越えないし、江津まで高低差も大きくないし、他の陰陽連絡線に比べて汽車は楽に上り下りできたと思われるかというと、周囲の地形が険しかったかも知れません。

 福塩線で起伏を調べました。国土地理院地図で断面図を作成できて有り難いです。

 塩町駅(三次市塩町)と上下駅及び上下駅と備後三川駅(の少し南の路線上、世羅郡世羅町)を結んだ直線上です。一番高い所が上下駅辺りです。上下駅の標高は384mでしたが、左右に位置がずれたのかも知れません。付近が分水嶺であることは分かります。