あらすじ
花菱英一の両親は、結婚20周年を機に念願のマイホームを購入する。その家は、さびれつつある商店街にあるかつて写眞館だった古い家だった。「小暮写眞館」の看板をそのままにしていたため、ある日心霊写真が持ち込まれる。英一は、その謎解きに乗り出すが……。
花菱英一の両親は、結婚20周年を機に念願のマイホームを購入する。その家は、さびれつつある商店街にあるかつて写眞館だった古い家だった。「小暮写眞館」の看板をそのままにしていたため、ある日心霊写真が持ち込まれる。英一は、その謎解きに乗り出すが……。
ひと言
久しぶりの宮部 みゆきさん。この本も700ページを超え、いつものことながら、もう少し短くならないものかと思いながら、でも最後まで読んだからこそ感動も一入(ひとしお)なんだなと思いながら楽しく読ませていただきました。第四話のピカちゃんが一人ぽっちで小暮さんのお墓に行くところもすごく心を打たれたし、桜と菜の花が咲く季節に一度飯給駅に行ってみたいと思いました。
差出人の名前はなかった。手紙ではなかった。スナップ写真が一枚、入っていただけだった。春の駅だ。線路脇を桜並木が彩り、菜の花の絨毯が広がっている。そこに停まっている電車は、上半分がクリーム色で、下半分が紅色だった。ほとんど正面から撮影した、愛らしい二両編成の電車だった。裏返すと、表書きと同じきれいな手跡で、こうあった。「小湊鉄道 飯給(いたぶ)駅」……。自然と、英一は笑っていた。いい写真だ、と思った。あんたが今いるとこも、こんなきれいなところか、と思った。桜と菜の花に囲まれて、あんたもこの電車のように、そこでひととき憩っているのか。走り出せ、垣本順子。――あたしはとっくに走り出してる。あんたこそ、走れ。――いつまでも停まってるんじゃないよ。駅は長居する場所じゃない。走り出せ、花菱英一。そうだ、走ろう。線路は続いているのだから。今はまだ見えないどこかに向かって走ろう。そこにはきっと、春の花がいっぱいに咲いている。(第四話 鉄路の春)
久しぶりの宮部 みゆきさん。この本も700ページを超え、いつものことながら、もう少し短くならないものかと思いながら、でも最後まで読んだからこそ感動も一入(ひとしお)なんだなと思いながら楽しく読ませていただきました。第四話のピカちゃんが一人ぽっちで小暮さんのお墓に行くところもすごく心を打たれたし、桜と菜の花が咲く季節に一度飯給駅に行ってみたいと思いました。
差出人の名前はなかった。手紙ではなかった。スナップ写真が一枚、入っていただけだった。春の駅だ。線路脇を桜並木が彩り、菜の花の絨毯が広がっている。そこに停まっている電車は、上半分がクリーム色で、下半分が紅色だった。ほとんど正面から撮影した、愛らしい二両編成の電車だった。裏返すと、表書きと同じきれいな手跡で、こうあった。「小湊鉄道 飯給(いたぶ)駅」……。自然と、英一は笑っていた。いい写真だ、と思った。あんたが今いるとこも、こんなきれいなところか、と思った。桜と菜の花に囲まれて、あんたもこの電車のように、そこでひととき憩っているのか。走り出せ、垣本順子。――あたしはとっくに走り出してる。あんたこそ、走れ。――いつまでも停まってるんじゃないよ。駅は長居する場所じゃない。走り出せ、花菱英一。そうだ、走ろう。線路は続いているのだから。今はまだ見えないどこかに向かって走ろう。そこにはきっと、春の花がいっぱいに咲いている。(第四話 鉄路の春)
