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あらすじ
まほろ市は東京のはずれに位置する都南西部最大の町。駅前で便利屋を営む多田啓介のもとに高校時代の同級生・行天春彦がころがりこんだ。ペットあずかりに塾の送迎、納屋の整理etc。ありふれた依頼のはずがこのコンビにかかると何故かきな臭い状況に。
(第135回直木賞受賞作)

 

ひと言
とても読みやすい文章で、はっ とするような名言がちりばめられていて素敵な作品でした。

 

 

「多田。犬はねえ、必要とするひとに飼われるのが、一番幸せなんだよ」「チワワがそう言ったのか」……。「あんたにとって、チワワは義務だったでしょ」大量のティッシュをもらった行天が、追いついてきて再び横に並んだ。「でも、あのコロンビア人にとっては違う。チワワは希望だ」……。南口ロータリーを抜けたところで、行天は静かに言った。「だれかに必要とされるってことは、だれかの希望になるってことだ」(二 行天には、謎がある)

 

 

「不幸だけど満足ってことはあっても、後悔しながら幸福だということはないと思う。どこで踏みとどまるかは北村クンが決めることだ」(六 あのバス停で、また会おう)

 

 

「お礼です。あなたに会わなかったら、俺はまた同じことを繰り返すところだった」知ろうとせず、求めようとせず、だれともまじわらぬことを安寧と見間違えたまま、臆病に息をするだけの日々を送るところだった。……。すべてをやり直したいと願うほど、北村が苦しむ日がもし来たとしたら。そのときこそ、妙子の家計簿を渡そう。北村が少しでも救われるように。(六 あのバス停で、また会おう)

 

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あらすじ
豆を手にすれば恋愛成就の噂がある、東大寺二月堂での節分の豆まき。奈良の女子大に通う「私」は、“20年間彼氏なし”生活からの脱却を願って、その豆まきに参加した。大混乱のなか、豆や鈴を手にするが、鈴を落としてしまう。拾ったのは、狐のお面を被った着流し姿の奇妙な青年。それが「狐さん」との生涯忘れえない、出逢いだった。第46回メフィスト賞受賞作。

 

ひと言
表紙のイラストが鮮やかで目を引いたので借りた本である。ラストは悪くないのかもしれないが、そんなこと もっと早くに気づけよと思ってしまった。

 

 

付き合う相手を選ぶときは、相手が自分に何をしてくれるかではなく、自分が相手に何をしてあげられるかを考えたほうがいいらしい。つまり、この人のために何かしてあげたいと思う相手でなければ長続きしないということだ。私は狐さんに対してお菓子を作ってあげたりエクストラバーガーでおごってあげたりしたけれど、二十年近くにわたる揚羽さんの献身とは比べ物にならない。この事実に気付いたとき、私は愕然とした。(エピローグ)

 

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あらすじ
あらゆる悩みの相談に乗る、不思議な雑貨店。しかしその正体は……。物語が完結するとき、人知を超えた真実が明らかになる。すべての人に捧げる、心ふるわす物語。

 

ひと言
たしかにおもしろいのだが、絡めすぎかなと思ってしまう。最近の東野 圭吾さんへの感想は、どうもついつい辛口になっているかも…。

 

 

「おまえ、音楽はどうするんだ」「だから、それは諦めようかなと…」「何だと」健夫の口元が歪んだ。「逃げるのか」「そうじゃなくて、俺が店を継いだほうがいいと思ったんだ」健夫は舌打ちした。……。「…。で、その時になって、親父が病気で倒れたもんだから仕方なく継いだんだとか、家のために犠牲になったんだとか、いろいろ自分に言い訳するんだよ。何ひとつ責任取らないで、全部人のせいにするんだ」(第二章 夜更けにハーモニカを)

 

 

「長年悩みの相談を読んでいるうちにわかったことがある。多くの場合、相談者は答えを決めている。相談するのは、それが正しいってことを確認したいからだ。だから相談者の中には、回答を読んでから、もう一度手紙を寄越す者もいる。たぶん回答内容が、自分が思っていたものと違っているからだろう」(第三章 シビックで朝まで)

 

 

Fab4とは「Fabulous 4」の略だ。日本語に訳せば、「素敵な四人」ということになる。ビートルズの別称だ。(第四章 黙禱はビートルズで)

 

 

人と人との繋がりが切れるのは、何か具体的な理由があるからじゃない。いや、見かけ上はあるとしても、それはすでに心が切れてしまったから生じたことで、後からこじつけた言い訳みたいなものではないのか。なぜなら心が離れていなければ、繋がりが切れそうな事態が起きた時、誰かが修復しようとするはずだからだ。それをしないのは、すでに繋がりが切れているからなのだ。(第四章 黙禱はビートルズで)

 

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あらすじ
幼馴染みと十年ぶりに再会した俺。かつて「学年有数のバカ」と呼ばれ冴えないイジメられっ子だった彼女は、モテ系の出来る女へと驚異の大変身を遂げていた。でも彼女、俺には計り知れない過去を抱えているようで―その秘密を知ったとき、恋は前代未聞のハッピーエンドへと走りはじめる!誰かを好きになる素敵な瞬間と、同じくらいの切なさもすべてつまった完全無欠の恋愛小説。

 

ひと言
この本を読み終えてすぐ、ネットでビーチボーイズの「素敵じゃないか」Wouldn't it be nice を聞きにいきました。『「陽だまりの彼女」を読んで…』というコメントがたくさん寄せられていて、やっぱり誰でもこの本を読んだ後は、絶対この曲を聞きたくなるよなぁと思いました。素敵な作品をありがとう。ラストもとてもよかったです。

 

 

The happy times together
We've been spending
I wish that every kiss was never-ending
Wouldn't it be nice
May if we think and wish
And hope and pray
it might come true
Baby then there wouldn't be a single thing
We couldn't do
We could be married, then we'd be happy
Wouldn't it be nice
 
『ペット・サウンズ』ザ・ビーチ・ボーイズ 真緒が僕に聴かせたかったという、「素敵じゃないか」が収録されたアルバムだ。……。

 

 

共に過ごす幸せなときの中 
一つひとつのキスが果てしなく続いたらいいのに 
素敵じゃないか
二人で思い描いたり、願ったり 
望んだり、祈ったりすれば 
叶うかもしれないね
そしたら僕たちにできないことなど 
何ひとつなくなるよ
僕たちが結婚したらきっと幸せになれるはずさ 
素敵じゃないか

 

 

「えっ?真緒って……」おもわず聞き返すと、お義母さんが笑って答えた。「最近、猫を飼いはじめたんです。うちは主人と二人暮らしなんですけど、いい歳してなんだか無性に子供が欲しいという話になって。それでこの間、ご近所から仔猫を譲ってもらって」……
「あまり猫らしくない名前でしょう。でも、どういうわけか名前はそれ以外にない気がしたんですよ。飼ってみたらこれがもう、娘のようにかわいくてね。猫を飼うのは初めてなのに、昔からずっとそばにいたように馴染んでしまって。ほら、親馬鹿でしょう」……。
彼女はきっと、何もかも消して行ったつもりだったのだろう。しかし両親の中にはおぼろげながら真緒の存在が残っている。きっとこれは真緒の不手際ではない。血こそ繋がっていなかったかもしれないが、真緒はたしかにこの夫婦の娘だったのだ。会社の同僚や近所の住人の記憶を消去してしまう不思議な力も、親の愛には歯が立たなかったのだ。(6)

 

7月14日 第18回目の3人旅。今回の旅行で一番印象に残ったのが、琵琶湖大橋を越えた所にある小野

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小野 妹子、小野 篁、小野 道風を祭った神社に加え小野 小町の塚(供養塔)があり、あと小野ヨーコさん(もちろんまだお亡くなりになっていないのでこちらに祭られることはないが…)が入れば有名な小野のすべてが揃うなと思いました。

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小野神社の境内に篁の立派な歌碑が建っていました。
遣隋使の小野 妹子の子孫である小野 篁が遣唐副使に任命されたが二度とも難破。遣唐大使ともめごとを起こし、病と称して乗船せず、また嵯峨上皇を諷する詩『西道謡』を作ったため、 上皇の怒りに触れて隠岐に流された。
「古今集」に、この歌の詞書には
隠岐の国にながされける時に、舟にのりていでたつとて、京なる人のもとにつかはしける
とあるということです。

わたの原 八十島かけて こぎいでぬと 人にはつげよ あまのつり舟

「もののあはれ」を感じずにはいられませんでした。


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小野 篁の息子である出羽郡司の小野 良真の娘とされている小野 小町の塚も境内にあました。
六歌仙の小野 小町も三蹟(三跡)の小野 道風も小野 篁の孫(小野 葛絃の子)にあたるとは、今まで知りませんでした。
旅行後、ネットで調べていて、嵯峨上皇に「子子子子子子子子子子子子」を読めと命じられ、「ねこのこのこねこ ししのこのこじし」(猫の子の子猫 獅子の子の子獅子)と読んだという逸話を見つけ、そういえば学生時代に古典の授業で聞いたなぁと思いました。

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その後、すぐ近くの小野 道風神社にお参りの途中に地元の方と出会い、わざわざ石段を降りて資料を持ってまた石段を登って資料を手渡していただきました。
この旅は、気の合う3人でいろんな所に行くのも楽しいのですが、こうした人との出会いがとても楽しい旅です。
ほんとうにありがとうございました。

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周りを住宅地に囲まれた小野妹子公園を登っていくと唐臼山古墳(妹子の墓)があり、そのすぐ前(裏)に小野妹子神社がありました。
琵琶湖を望めるとても景色のいい場所に妹子は眠っていました。

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長浜城のすぐ隣の国民宿舎の「長浜太閤温泉」に入り、
夕食は湖岸道路331を北上し姉川を越えてすぐの 湖魚料理「呑舟」で鮎料理。
ゆったりした和室で、テーブルの上にロースターがあり、自分で好きな焼き加減にして食べる鮎の塩焼きは絶品。苦みもなく3匹とも頭からすべておいしくいただきました。

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あらすじ
成瀬(リーダー)は嘘を見抜く名人、さらに天才スリ&演説の達人、紅一点は精確な体内時計の持ち主――彼らは百発百中の銀行強盗(ギャング)だった……はずが、その日の仕事(ヤマ)に思わぬ誤算が。逃走中に、同じく逃走中の現金輸送車襲撃犯と遭遇。「売上」ごと車を横取りされたのだ。奪還に動くや、仲間の息子は虐め事件に巻き込まれ、死体は出現、札付きのワルまで登場して、トラブルは連鎖した! 最後に笑うのはどっちだ!? ハイテンポな知恵比べが不況気分を吹っ飛ばす、都会派ギャング・サスペンス!

 

ひと言
職場の人に伊坂さんならと薦められた本。この作品にも『カラマーゾフの兄弟』が出てきて、村上春樹にもよく出てくるので、一度は図書館で借りて挑戦したのだが、挫折…。やっぱり『カラマーゾフの兄弟』は読まないといけないなぁと思った。最初の警官の伏線が見事に活きていて、とても楽しめた作品でした。
人の上に立つ人間に必要な仕事は「決断すること」「責任を取ること」の二つしかない、と雪子は思っていた。たぶん大半の政治家はそれをやらない。親だってやらない。もちろん大半のギャングのリーダーは言うまでもない。(第2章)「a=b という式があるとするだろう?」「数学なら得意だよ」「その両辺にaをかけるんだ」……(第1章)

 

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あらすじ
お父さんからは夜の匂いがした。優雅だが、どこかうらぶれた男、一見、おとなしそうな若い女、アパートの押入れから漂う、罪の異臭。家族の愛とはなにか、超えてはならない、人と獣の境はどこにあるのか?この世の裂け目に堕ちた父娘の過去に遡る。狂気にみちた愛のもとでは善と悪の境もない。黒い冬の海と親子の禁忌を圧倒的な筆力で描ききった著者の真骨頂。
第138回(平成19年度下半期) 直木賞受賞

 

ひと言
読み終わった後、ネットで桜庭一樹という人が女の人であることや、(冒頭)「私の男は、ぬすんだ傘をゆっくりと広げながら、こちらに歩いてきた。…」とあるように『傘』が大切な役割をはたしているという書き込みを見て、ふーんなるほどそういう読み方もあるんだと感心したり、1993年7月12日に起った奥尻島地震(死者202人 行方不明者28人)を題材にしており、そういえば日本海側で発生した最大規模の地震だったなぁ、関西電力の大飯原発の再稼働は大丈夫なんだろうかとふと思った。

 

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あらすじ
「ヤドカミ様に、お願いしてみようか」「叶えてくれると思うで。何でも」やり場のない心を抱えた子供たちが始めた、ヤドカリを神様に見立てるささやかな儀式。やがてねじれた祈りは大人たちに、そして少年たち自身に、不穏なハサミを振り上げる。やさしくも哀しい祈りが胸を衝く、俊英の最新長篇小説。(2010年 第144回 直木賞受賞)

 

ひと言
やっとこの作品を図書館で借りることができた。第三章までと異なり、第四・五章、特に第五章最後のスリルとサスペンスはさすが直木賞受賞作品と思わせる、とても読みごたえのあるものでした。

 

 

英語で癌は「キャンサー」と言うが、蟹の「キャンサー」と綴りが同じで、それは人体を侵す癌組織が蟹の姿に似ていたからなのだと、その研究者は説明した。(第二章)

 

 

「……。でも、利根くんが引っ越すことになって、そのとき初めて、自分がぜんぜん大人になれてなかったってわかった」「…どうして?」ようやく、声が出た。「ほっとしたから」鳴海は目を細めてまた笑い、それと同時に鼻の脇を涙が伝った。「利根くんがいなくなっちゃうのは残念だったけど、利根くんのお母さんがいなくなるって知って、あたし、ほっとしたの。お父さんが、また自分のところに戻ってきてくれるって思って」言葉をつづけているうちに、目は笑っているのに、その目から涙がどんどん溢れてきた。ぽろぽろと頬を伝い、半分は顎の先から落ちて、半分は首を伝ってTシャツの布地に染み込んでいった。「大人になるのって、ほんと難しいよ」ほとんど泣き声で、鳴海は最後にそう言った。(終章)

 

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あらすじ
2011年6月に文藝春秋の臨時増刊として刊行され、18万部を発行するベストセラーとなった「つなみ 被災地のこども80人の作文集」で企画・取材・構成にあたったジャーナリストの森健氏による書き下ろしドキュメント。作文集に登場する9人の岩手県と宮城県の被災地の子どもたちと家族の物語を綴っている。
(2012年 第43回 大宅壮一ノンフィクション賞受賞)

 

ひと言
先月新聞でこの本が大宅壮一賞を受賞したという記事を目にした数日後、図書館にあったこの本を借りることができた。読みたかった本がすぐに借りられるのはうれしいことなのであるが、受賞の話題の後なのに、この本がすぐに借りられることを少し寂しく思った。上を向いて歩こう。涙がこぼれないように。

 

 

子どもたちの作文を読む中で気がついたことがあった。作文には、ただの一つも かの地から逃げたいという言葉はなかったのである。津波が怖いと書くのは当然のことだった。だが、その震える体験を経てもなお、そこから逃げたいという言葉は出てこなかった。むしろ、早く復興してほしい、自分も将来役に立ちたいとの言葉が原稿用紙のマス目を埋めていた。それは数年後、あるいは十数年後、彼らが復興の担い手になるという決意の表れでもあった。……。『つなみ』を生き抜いた子どもたちがいるかぎり、また東北沿岸は再興していくに違いない。かって『大地』を書いた米小説家パール・バックは、津波に襲われる日本の漁村をモデルに『つなみ(The Big Wave)』(1947年)という本を書いた。漁村で家族全員を失った少年ジヤは、周囲の家族に助けられながら育ち、長老にこう言う。<「ここがおれ達の居場所なんです。火山や海におどかされて危険であろうと、おれ達が生まれたのはここなんです。」> それは東北の子どもたちから何度も聞いた言葉と同じだった。(終章 悲劇はなぜ繰り返されたのか)

 

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あらすじ
玄武書房に勤める馬締光也。営業部では変人として持て余されていたが、人とは違う視点で言葉を捉える馬締は、辞書編集部に迎えられる。新しい辞書『大渡海』を編む仲間として。定年間近のベテラン編集者、日本語研究に人生を捧げる老学者、徐々に辞書に愛情を持ち始めるチャラ男、そして出会った運命の女性。個性的な面々の中で、馬締は辞書の世界に没頭する。言葉という絆を得て、彼らの人生が優しく編み上げられていく。しかし、問題が山積みの辞書編集部。果たして『大渡海』は完成するのか。
(2012年 第9回 本屋大賞受賞)

 

ひと言
歴代の本屋大賞の中で最高得点510点。2位と150点以上の得票差で大賞を受賞した「舟を編む」。誰もが納得の受賞作品だと思います。「舟を編む」というタイトルもとてもいいタイトルだと思いました。

 

 

「辞書は、言葉の海を渡る舟だ」魂の根幹を吐露する思いで、荒木は告げた。「ひとは辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かびあがる小さな光を集める。もっともふさわしい言葉で、正確に、思いをだれかに届けるために。もし辞書がなかったら、俺たちは茫漠とした大海原をまえにたたずむほかないだろう」「海を渡るにふさわしい舟を編む」(一)

 

 

れんあい【恋愛】特定の異性に特別の愛情をいだき、高揚した気分で、二人だけで一緒にいたい、精神的な一体感を分かち合いたい、出来るなら肉体的な一体感も得たいと願いながら、常にはかなえられないで、やるせない思いに駆られたり、まれにかなえられて歓喜したりする状態に身を置くこと。「おお、知ってる知ってる。これ、『新明解国語辞典』だろ」「はい。第五版です」(二)

 

 

「公金が投入されれば、内容に口出しされる可能性もないとは言えないでしょう。また、国家の威信をかけるからこそ、生きた思いを伝えるツールとしてではなく、権威づけと支配の道具として、言葉が位置づけられてしまうおそれもある」「言葉とは、言葉を扱う辞書とは、個人と権力、内的自由と公的支配の狭間という、常に危うい場所に存在するのですね」……。「ですから、たとえ資金に乏しくとも、国家ではなく出版社が、私人であるあなたやわたしが、こつこつと辞書を編纂する現状に誇りを持とう。半生という言葉ではたりない年月、辞書づくりに取り組んできましたが、いま改めてそう思うのです」……。「言葉は、言葉を生みだす心は、権威や権力とはまったく無縁な、自由なものなのです。また、そうであらねばならない。自由な航海をするすべてのひとのために編まれた舟。『大渡海』がそういう辞書になるよう、ひきつづき気を引き締めてやっていきましょう」(五)

 

 

馬締はふと、触れたことがないはずの先生の手の感触を、己れの掌に感じた。先生と最後に会った日、病室でついに握ることができなかった、ひんやりと乾いてなめらかだったろう先生の手を。死者とつながり、まだ生まれ来ぬものたちとつながるために、ひとは言葉を生みだした。……。俺たちは舟を編んだ。太古から未来へと綿々とつながるひとの魂を乗せ、豊穣なる言葉の大海をゆく舟を。