あらすじ
丘の上に建つ二軒の家。それぞれに住む同い年のカイとミノリは、幼なじみとして育つ。家のそばにそびえるケヤキの木の下が、二人にとって大切な場所だった―。「おたがい大好きだけど、恋愛も結婚もしない。どんな秘密もつくらない」幼なじみ二人が交わした約束。純粋すぎる愛の行方は。
丘の上に建つ二軒の家。それぞれに住む同い年のカイとミノリは、幼なじみとして育つ。家のそばにそびえるケヤキの木の下が、二人にとって大切な場所だった―。「おたがい大好きだけど、恋愛も結婚もしない。どんな秘密もつくらない」幼なじみ二人が交わした約束。純粋すぎる愛の行方は。
ひと言
ある意味 石田衣良さんらしい作品。いやらしさはないから女性ファンも多いんだろうけど、4TEENのような小説を読みたいなぁ。こういう極端な男女の関係という設定はおもしろいとは思うけれど…。
ある意味 石田衣良さんらしい作品。いやらしさはないから女性ファンも多いんだろうけど、4TEENのような小説を読みたいなぁ。こういう極端な男女の関係という設定はおもしろいとは思うけれど…。
「ずっといっしょにいるからじゃないかな」ミノリの声はいにしえの神を祀る神殿の巫女のようだった。意見ではなく、真実を告げる声だ。カイは黙って続きを待った。「どれほど大好きで愛しあってる人でも、ずっといっしょにいるとダメになる。男の人と女の人って、そういうものなんじゃないかな。わたし、ずっと幸せな夫婦って見たことないよ。山口くん、森本くん、伊勢さん、霧島さん、それにカイのところも」それはみな親が離婚した子の名前だった。カイのクラスの三分の一ほどはシングルマザーやシングルファザー家庭である。「ずっといっしょはダメなんだ」「きっとそうだよ。時間が全部ダメにするんだ。恋も、愛も、結婚も。わたしはカイのことが好き。カイみたいにわたしに似てる人に会ったことないし、これからもいないと思う」胸の中心を射貫かれて返事もできなかった。カイがミノリに感じるのも、ただの初恋ではなかった。この人と生涯を送りたいという願いだ。恋愛も、性も、結婚の法的な根拠もわからないけれど、それは関係なかった。大人であるか、子どもであるかも関係ない。ひとりの人間として、カイは真剣にミノリを求めていた。この人といっしょに自分の命をつかいたい。それは胸が苦しくなるほどの願いだった。深呼吸をするとカイはいった。「ぼくもミノリじゃなくちゃ、嫌だ。ほかの女の子はもういい。ミノリとなら、この手や心臓を交換してもいい」
「わたしがなにも気づかないと思っていたの?初めて会ったときから、あなたとミノリさんのあいだになにかないのか、わたしは心配してた。身体の関係がないとわかったあとでも、やっぱり心配だった。あなたはわたしを抱いても、いつもミノリさんのことを考えていた」妻のいうとおりだった。返す言葉などない。カイはうなだれる。「何年も、何年も、疑ったまま自分の夫と暮らすのが、どれだけ不安だったか、あなたにわかる? わたしが子どもをほしがったのは、子どもができたらあなたが変わるかもしれないと思ったから。あなたが父親になって、わたしたちがほんとの家族になれると思ったからなのに」ミキは強かった。ぎりぎりまでこらえた涙を一滴だけ右目から流した。号泣して叫ぶようなことはしない。追いつめるようにいう。「ミノリさんとなにをするの? セックスでないことはわかってる。正直にいって」オネスティ。妻からも、そんなものを求められるとは思ってもいなかった。カイはゆっくりと顔をあげた。「ミノリは近いうちに乳房をとる手術をする。そのまえに、ぼくに絵を描いてほしいって」ミキの目がLEDでも仕組んだように光った。「裸で?」「そう、裸で。両方そろった乳房を描かなければ意味がない」目を細めて、妻はいう。「いいお話ね。異性の幼馴染みのために、ヌードの絵を描く。美しい姿を永遠に残してあげる」妻が両手をぎゅっとにぎり締めた。関節が白くなるほど力をこめている。「わたしにだって女のプライドがある。あなたがどうしてもミノリさんの絵を描きたいというなら、もう別れましょう。結婚生活はこれで終わりにする。最後はあなたが決めて」カイはくたくたに疲れていた。夕刻から感情の嵐に襲われ、身も心も振りまわされている。「いついく予定なの?」「明日の朝」ミキの怒りが目もあてられなくなるほど突然燃え立った。身体の正面が火傷しそうだ。「わかった。返事は明日の朝きかせて」妻が寝室に消えると、カイはとぼとぼ階段をおりていった。水が苦い。眠ることもできず、ミキがいるベッドにも近づけずに、カイはアトリエで夜を明かした。ミキとつきあった二十年近い歳月を思った。静かな結婚生活だった。この安定が幸福なのだと、自分にいいきかせる日々だった。明けがた、カイは心を決めると、デッサン用具を一式と短い旅行の荷物をまとめた。この家を捨て、長い旅にでなければならない。















